住み慣れた家、慣れた香り。これは、私の身体にもおそらく染みついているであろう、私の家の匂い。見慣れた少し小さなキッチンに和室、それから家族と共に寝た寝室。
アカデミーから家に帰ると、いつもお母さんが料理を用意してくれていた。当時は当たり前のように思っていたけれど、毎日温かい手料理が待っていることは、自然と私を安心させていた。








(……子どもの頃の夢を見るなんてね)

目を覚ますと、鼻につくのは建てたばかりの新しい家の香り。視界に入るのは傷のついていない綺麗な天井。隣には愛しい人がすやすやと寝息を立てている。朝起きた時に、隣にこの人が寝ているという事実は、まだ少し慣れない。
彼と結婚を誓いあって式を挙げて。まだ少しくすぐったいような、そんな生活が続いている……のだけれど。正直忙しさで目が回りそうなのである。

だけど、今日は貴重な二人揃っての休日だ。

私もカカシも上忍の身であるため、毎日のように里中、時には里外に出ることもある。そこまでは今までと同じだけれど、結婚すると家事というものが付いて回る。嬉しいことに、カカシも協力すると言ってくれるし、洗濯物を取り込んでくれていることだってある。料理も申し分なくて、正直出来すぎる旦那様だ。でも、彼は里一番の忍。なかなかに生活は大変なのだ。

私自身、任務中にも、ふと今日の晩は何にしようか、そんなことを考えていることさえある。

(……相変わらず、睫毛長いなー)

ぼんやりと、横でぐっすり眠るカカシの顔を見つめる。
時々、思う。今からこんな状態でいつか将来、子育て出来るのかな?
任務に家事、子育て。
もしかしたらカカシは子どもが出来ることを嫌がるかもしれない。それだけ、時間が取られるから。

まだ結婚してから、そんなに日が経っていないのに。

「やってけるかなー……」
「……名前?」
「あっカカシ……おは、よう」

私がぽつんと漏らした独りごとに目が覚めてしまったようだ。聞こえた、よね?

「名前ー、おいで」

背中と腰を引き寄せられ、あっという間にカカシの腕の中に収まった。温かくて気持ち良くて、また寝てしまいそうになる。

「なーに思いつめてんの」
「カカ、シ……」
「名前は頑張り屋さんだからー、何もかも完璧にしようとしてない?
完璧じゃなくていーの」
「……」

なんというか、ここまで考えていることをお見通しにされると恥ずかしい。それにしても、何でこの人はこんなに私の欲しい言葉をくれるのだろう。いつでも、だ。

「お前はオレの大事な奥さんだから、あんまり無理して任務を詰める必要もないでしょーに」
「で、も……今、人手不足だし」
「まあ、そう考えるのがお前の良いところでも悪いところでもあるんだけどね。お前の分くらい、オレが働くから」
「けど……」
「けど?」

ずっと言いだせなかったことを、言ってみようと決意する。

「赤、ちゃん……とか」
「え?何て?」
「カカシ、は……子ども、欲しくない?」

言ってから、カカシが目をまんまるくしたのを見て、すぐに後悔した。

「ごっごめん、今の忘れて!」
「ちょちょちょっと!」

布団にもぐろうとした私を、カカシの手が阻止した。

「何一人で自己完結してんの?」
「だって……迷惑かな、って……」

そう言うと、はぁーっとカカシがため息を漏らした。そして、私の目を見つめる。

「オレはね、お前と一緒になれてすっごく嬉しいし、そりゃあいつかは子どもも……なんて思ってる。けどね、そんなに急ぐことはなーいよ。名前がオレのために、って無理することだってない」
「カカシ……」

その言葉に、心にかかっていたもやもやが少しずつ晴れていく。

「ま!何でも完璧にしようと思って、頑張りすぎないことがお前の課題ね。
あ、じゃあ……今日はオレを、好きなように使ってくれていーよ?」
「へっ?」

にこにこしながらカカシが続けて言う。

「今日一日、何でも言うこと聞くよ?」
「え……」


そりゃあ、してもらいたいことって、たくさんあるけど。でも、何よりも私に今必要なものは。


布団の中で、カカシの胸にすり寄る。

「じゃあ、ずっとぎゅーってしてて?」
「……名前って、時々爆弾落とすよねぇ」

呆れたように言いながらも、私をしっかりと抱きしめてくれる力強い腕が愛しい。
額に、瞼に、頬に、そして唇に優しく落としてくれる口づけが愛しい。
このカカシの温もりみたいに、温かい家庭をいつか二人で築けたら、いいな。ね、カカシ?


20120307
確かに恋だった



何気ない語調で、多分、何でもないことのように
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