それはいみのない | ナノ




苛々する。

理由などとうに忘れてしまった。
ただ胸からあふれだして全身を支配するこのどす黒くどろどろとした感情をどうにかしたかった。
いや、もうこれは感情ではないのかもしれぬ。衝動と呼ぶにふさわしい。
壊して壊して壊して最後に壊されたい。そんな訳の分からぬ自棄の衝動を己は持て余している。
苛々する。
この無様で醜悪な自分をどうにかして消し去ってしまいたい。自傷行為でもしてみようか。いや、それは駄目だ。佐助が悲しむ。それは駄目だ。俺は佐助を悲しませたいわけではないのだから。ならば手当たり次第になにか壊してみようか。ああ、それも駄目だ。修理費云々よりも人としてそれはいけない。冷水でも頭から浴びれば少しは鎮静するだろうか。いや、それは真っ先に試したのだった。だから己はずぶ濡れで、まとわりつく服がこの苛立ちを増長しているのを忘れるな。
ならばどうしたらいいのだろうか。
そんなこと考えなくてもわかっている。だから己は先刻から足だけをただひたすら動かしている。つかつかと、目に狂気を携えて一心不乱に進む己は端から見ればどれほど滑稽か。そんなことどうでもよい。
無機質に動いていた足が、止まる。
幾分かその荒ぶりを押さえた苛立ちは、しかし噴火を押さえたマグマのように熱を失ってはいない。
はやく、この熱を誰かにぶつけたい。
不器用な己はこの方法しか知らないのだから。



「―――伊達、政宗」



隻眼の竜が、振り向く。



「手合わせ、頂く」



ぎらり、光った眼差しは竜のものか、それとも竜の目に映った己のものか。





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