ノックもせずに勝手に部屋に入って来たかと思えば、当たり前のように俺の隣に座り、そして人の迷惑など一切省みずに終始べらべらと話すのが最近の奴の日課だった。
そりゃ最初は叱り付けたものだが、叱るだけ無駄だと分かってからは無視を決め込んだ。
…テキトーに相槌さえ打てばいい。それでも奴は懲りずに毎日俺の部屋を訪れるのだから、奴もそれ程気にしていないのだろう。

そんな調子で1ヶ月が過ぎた。奴は変わらず何の目的かもはっきりしないまま部屋に来続け、俺は変わらず相手にしていなかった。…流石にその頃になると、もしかしたら一生こんな毎日が続くのかもしれない、と諦めにも似た感情が交じってきたものだ。

しかし、そんな奴の行動に僅かな変化が見られたのは1ヶ月と4日目というこれまた(奴らしく)テキトーな夜の事だった。


「オイラ、いつも思うんだ。」
「……」
「旦那ってさ、ホント綺麗な顔してるよね。」

「……」
「…下手すりゃ、そこらの女抱くより旦那見てる方が興奮するかも、うん。」
「……、」

相槌も忘れる程、呆れた内容を話す奴。それだけなら未だしも(否、決して善いとは言えないが)、…体制が体制だった。今日の奴は、(それはそれはいつもと変わらない位)当たり前のように俺を組み敷き、その上でべらべら喋り続けるのだ。
制止の言葉も罵声も飲み込んでしまう程、堂々とし過ぎている。

「…上、どけよ」

やっとの事で出た言葉も「やだ、」の一言で丸め込まれた俺は、心の底からため息を吐いた。

「オイラさ、旦那が好きなんだよね」
「……」
「でさ、オイラ、好きな子って虐めたくなっちゃうの」

サゾだからね、と対象的に奴は笑う。そんな様子を相当冷めた目で見上げている俺に、はたして奴は気付いているのだろうか。…答えなど分かり切っている。
旦那見ると結構ヤバイんだよ、…それを余計に促す奴の馬鹿げた言葉に尚更ため息が零れた。

「…もういい加減にしろよ、」

奴の手首を掴み、払う。それでも一向に動こうとしない奴にもう一度、どけ、と低く言い放つが、結局は同じ。

「…しつけーよ、早く……、」
「旦那。……泣かせてもいい?」

更に、煽りを掛けるかのごとく軽い口調で奴は言う。
俺も俺でさほど真剣には受け止めず、ふざけるな、と流した。だが、視界に映った奴を見て時間が止まる。奴の目は稀に見る程鋭く、それなのに口元だけが笑っていたのだ。…不覚にも、その表情に鳥肌が立ってしまう。

「旦那が苦しむ顔が、見たい。」

しかし危険を察知した時には既に遅く、間髪入れずに奴は俺の首筋に噛み付いた。

「…っ、…ふざけんな!」
「うん、その顔。そそるよ。」
「…てめっ…!」

奴の舌先が耳の裏に回り、やがて耳の中を行き来する。
その度に身体がビクン、と跳ねる。芯が熱くなる。
ふざけるな、言葉にならない憤りが胸を叩いた。対する奴はさぞ愉しげに喉で笑い舌先をより大袈裟に回した。…息遣いが熱い。

「っ、…ばか!やめ……、」
「やめない。」

更に、奴は甘ったるい低音を俺の耳に吹き込む。俺がこれに弱い事を知っててやる奴は反則だ。
やめろ、という意思だけが空回りする。

「…満更でもないんじゃねぇの?」

奴はそんな俺を嘲笑い、俺の上着を裂いた。そして、俺が行動を起こさない事を良い事に、じっとりと湿った肌に八重歯を立てたのだ。

「…っん、」

堪らず眉を潜める。…奴がこの顔を望んでいると分かっているのに、不可抗力には勝てない。
案の定、調子づいた奴は「可愛い」だの「エロい」だの言って、ほくそ笑む。
憎たらしい、勝ち誇った顔で。

しかし、幾らその顔に毒づいても結局何も出来ない自分がいた。
…快楽が、理性をを食らうのだから仕方ない。きっと、まんまと誘惑に墜ちるまで数分と掛からないだろう。
このままでいいのか、と残り僅かな「自分」が必死に投げ掛けてくる。
このままでいいのか。
…俺はこんなガキに劣ったままでいいのだろうか。





「デイダラ……?」
「ん?」

「…足りない、」

…俺の中の何かが切れた。
恥も何もかも関係なしに、出来る限り女々しい表情を奴にしてみせたのがその証拠だ。奴は初めてみる俺の表情に戸惑いを隠し切れず、キョトンと俺をただ見つめる。その瞬間を見計らい、俺は奴の唇を強引に奪った。

「…ん、」
「……っ、」

卑猥な音を大袈裟に立てる。そして奴の口の中にわざとらしい程の唾液を流し込み、更に舌を丹念に絡ませた。
唾液が意図的に溢れ返る。顎から滴る。

「…だん、な…、」

奴から苦しそうな、…しかしどこか雄の唸り声にも聞こえる声が漏れた。我慢の限界を知らせる、それ。
その分かり易過ぎる合図を前に、待ってました、と俺は震える奴の舌に容赦無く歯を立てた。

「っ…!!」

反動で奴の身体が一瞬跳ねる。それを見計らって俺は奴を振り払い、体制を立て直す。
そして、嫌味な程ニヤリと口元を釣り上げ、しゃがみ込む奴を見下してみせた。

「はっ、様ァねぇな。」
「…っ…、」
「……悔しいか?…おら、泣けよ、」

その様子を、盛大に眉を寄せ見上げる奴。哀れなその姿に元来の血がざわざわと騒ぐ。

「…、今に痛い目見させてやるよ、うん。」
「出来るもんならやってみろ、」

俺は奴の顎に手を添え、笑いながら見据えた。それにつられて奴は笑うが、目は決して笑っていない。

「泣く余裕も、あげない事にした。」
「言っとけ。」
「…強気でいられんのは、今の内だけだよ?うん」

口元だけを吊り上げたまま、奴は挑発を吐く。その安い売り言葉をまんまと買ってしまった(買ってやった)俺は、奴の顎を思い切り引き寄せた。尖った黒い爪が、奴の綺麗な肌にメリメリと食い込む。…どれもこれも、俺をその気にさせた奴が悪い。

「…せいぜい愉しませて、頂戴。」

悪びれる事も無いまま俺は、まるで中指を突き立てているかのような表情を浮かべる奴の、その赤い唇に、思い切り噛み付いた。
…その口内は、酷く濃厚な、錆びの味がした。










END

Fuck me baby?
(犯してみなさい?)

(…お望み通り、返り討ちにしてやるよ、)





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5555Hitのお祝いに名無さまが執筆して下さいました!
冒頭からもうニヤけが止まりません…!強気な2人がほんとたまらないです!!
そしてこのサイトの為に執筆して下さったことにもう嬉しすぎて何と言ったらいいか…!
本っ当にありがとうございました!
一生大切にします!!





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