小説 | ナノ


ふ、と部屋を見渡すと、以前とは違う箇所がいくつも見付かるようになった。
部屋の間取り、食器、寝具、衣服。
どれを取っても以前と明らかに違う、言うなれば「変化」だ。
…まぁ、それは俺に限った話じゃねぇとは思うが。

「…竜崎さん、何を考えてるんです?」
「…あ?」
「アンタ、さっきから箸が役目を忘れちまってますぜ」
「…何でもねぇよ」

ー…大体、お前の所為だろうが。
そんな事を言えばきっとコイツはつけあがるだろうから、敢えて何も言わず、誤魔化すように味噌汁を飲んだ。…美味い。

「…増えましたね」
「…あ?」
「いや、俺の私物が、って事ですよ」

箸をカチカチと鳴らしながら、奴はカラリと笑ってみせる。(畜生、気付いてんじゃねぇか…!)
…その箸は、確かに去年の今頃俺が送った物だ。
奴が使っている汁椀も茶碗も湯呑みも、わざわざ同じ柄のを揃えた。
飲み終えた味噌汁がヤケに喉に残る。
今度は茶へと手を伸ばして、一気に呷った。
程良い苦味が心地いい。

「…竜崎さん」
「…何だ、さっきから」
「俺ね、実はちょいとアンタに隠れて貯金をしてまして」
「…?あぁ、」
「それがまぁ、纏まったんでね?」

つい先日、ま、安物ですけど買ってきた物があるんですよー…、と、奴が取り出したのは何だか誰しもが一度は見た事があるような小せぇ箱だった。
で、?その、純白とでも言わんばかりの真新しい箱を、あろうことか俺の前に差し出しやがってどういう頭をしてやがるんだコイツは。

「…竜崎さん。俺はいつでも本気ですから」
「…」
「ー…アンタの指に、嵌めちゃあくれませんか」

…てめぇ、其処で頭を下げるのは反則だろ。
何だ。何だ、この展開は…?
ぐるぐると脳内で今までの思考に加えて全ての記憶が舞う。
囲う卓、牌の音、ヤニの匂い、金の感触、踊る感情、少しの欲情、一回りデカい背中越に見ていた鮮やかな采配。
その一部始終を、今は俺だけが知っている。
コイツの癖も、仕草も、今や俺以上に把握してる奴なんざいねぇだろう。
…本当に、何だ。この展開は。


「…こんなもん無くても、お前はもう俺の生活の一部じゃねぇか」
「…竜崎さん?」
「指は勘弁しろ、仕事に支障が出る」
「ち、ちょ…、まさか、それ…って」
「…貰えるもんは貰っておいてやるよ、矢木」

今更、お前のいない生活が想像出来るか、馬鹿野郎。好き勝手に俺の生活をかき回しやがって。
だからそんなに嬉しそうな顔をするんじゃねぇよ…、あぁ、何だかまた喉が乾いて来やがった…。

「…竜崎さん」
「何だ、俺は今茶ぁ淹れて来ようと…、」
「分かってますって、…俺も貰って良いですか?」
「…勝手にしやがれ」

はは、すみません、なんて奴は絶対軽く口にしているだけだ。
けれどそれは何処か嬉しげな語調で、俺は何も返せない。
そうしてそっとヤカンを火に掛けながら、わざとらしく溜め息を吐いた。

あぁ、今日は良い天気だ、と。



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「fleeting.」の天懸さまから相互記念に頂きました(^^)
何度読んでもにやにやしてしまいます///
天懸さんの矢竜が大好きです><
素敵小説、ありがとうございました!


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