空気が澄んでいて、星が綺麗に見える夜だ。
俺は屋敷を抜け出してヴァリアー本邸に向かっていた。誰も護衛に付けないで来たからばれたらきっと怒られる。リボーンや獄寺くん、ラルなんかはすごい剣幕でお説教してくれそうだ。明日のことを考えて一人クスクス笑った。


ヴァリアー本邸のセキュリティはボンゴレ本部のそれに匹敵するくらい凄い。ましてやこんな真夜中だから解除が面倒。だから門の前でスクアーロに直接電話を掛けて開けてもらった。

「ったく、何やってんだぁこんな夜中に…しかも一人かぁ?」

文句を言いつつ迎えに来てくれる。だからスクアーロは好きだ。

「せっかく来たとこ悪ィが、ボスなら居ないぜぇ?」
「あ、そうなの?」
「ついさっき出かけたぜぇ」

ザンザスは狡い。
俺は護衛をつけないで一人で出かけるとすごく怒られるのに、あいつはいつだって自由だ。

「じゃあザンザスの部屋で休む。ベッド空いてるみたいだし」
「そうかぁ」

夜の間も見張りをいてくれているヴァリアー隊員に微笑みかけつつ、一番奥のザンザスの部屋に到着。
スクアーロにお礼を言って、勝手知ったるなんとやらで部屋の中を進み、スラックスと脱いで近くの椅子に掛ける。下着とシャツだけになってベッドに潜り込んだ。本当は裸の方が質のいいシーツにはすごく気持ちいいけど、きっと夜中に部屋の主が帰ってくるだろうから自重した。あぁやっぱり自分の部屋よりもここの方が落ち着く。途端に眠気が襲ってきてそのまま眠りに落ちた。


勢いよく扉が開く音がしてうっすらと瞼を開ける。部屋の主が帰って来たんだろう。彼は迷いなくベッドサイドまで近づいてきた。

「来てたのか」
「ん…ザンザス、おかえり」

今何時だろう。ザンザスが帰って来たのだから午前3時くらいだろうか。

「連絡寄こせばすぐ帰ってきてやったのに」

俺のとは違う、大きくて節くれだった優しい掌が右頬を撫でる。

「…この匂い知らない」
「そうか?」

ザンザスには愛人がたくさん居る。俺の知っている人も居る、たまたま二人で飲みに行ったときに偶然鉢合わせしただけだけど。俺とザンザスはまぁ所謂恋人関係というやつだけど、俺にもザンザスにも愛人は居るし別に別れてほしいと思ったこともない。ただ、女を抱いた後には唇同士のキスそれ以上のことはしないと決めている。そのルールさえ守ればお互いに干渉しない。別段取り決めたわけではないが暗黙の了解になっている。

「シャワーも浴びてないの?」
「あぁ、なんとなく早く帰りたくてな」
「早く浴びてきなよ」

ザンザスはジャケットとシャツをサイドテーブルに投げてシャワールームに消えていった。
あんな風に扱ったら皺になるじゃん。ベッドから這い出て自分のスラックスを椅子の座席部分に、彼のシャツとジャケットを背に掛ける。あぁでもどうせ明日クリーニングか、と自分の行動に笑って、それから悪戯を思いついて今着ていたシャツを脱いだ。

「何やってるんだお前は」

シャワーから上がってきた上裸の彼は予想通り開口一番呆れた声でそう言葉を投げた。俺は先ほど脱ぎ捨てた自分のシャツのかわりにザンザスが投げた薄いグレーのカッターシャツ一枚でベッドに腰掛けている。ちなみにシャツ一枚だよ、と何も付けていない下肢をバタバタさせてみる。誘っているわけではない。挑発しているのだ。

「バカか」

悔しいことに、俺が初めてザンザスと出会った頃から成長はしているはずなのに相変わらず体格差は激しい。当時30センチあった身長差も未だに20センチ差までしか追い付いていない。一般的な成長期を考えればもう縮まらないだろう…彼はあの後も成長したらしいが。だから彼のシャツは俺の臀部までをすっぽりと隠すほど丈が長く袖も指しか出ない。

「でもこういうの“男のロマン”でしょ?」
「お前みたいな貧相な体じゃちっともロマンじゃない」
「貧相!?ひど、これでも昔よりは…!」

ニヤニヤした顔。どうしお前と比べたらそりゃあ貧相ですよ!
せっかく色っぽいことしてやってんのに台無しだよ。俺は拗ねて着ていたシャツを脱ぎ棄ててまたベッドに潜り込んだ。今度こそ裸、気持ちがいい。

「おい、」
「俺はもう寝る!」
「勝手に人のベッドを占領するな」
「触るなよ?」

ザンザスとは反対側を向くように寝返りを打って目を閉じる。近づいてくる気配がしないからそっと向きを直し薄く瞼を開けて盗み見るとザンザスは椅子に座っていた。寝ないのかな。

「なんだ?誘ってるのか?」

笑いをこらえた様な声で聞かれた。覗き見ていることなんてばれてる。それはそうか、あれでも天下のボンゴレファミリー暗殺部隊のボス様だ。

「ジョーダン」

まだ話していたいのに睡魔は容赦なく俺を連れ去った。


煩い。
ドンドンドンドン煩すぎる。
うっすらと覚醒した頭で苛立ちを覚えた。

「十代目!いらっしゃいますか!?」

次いで朝とは思えない大声。というかこれはもしかして、もしかしなくても。

「ご、獄寺くん?」

うわぁもうばれたのか。まぁそりゃあそうか、こうやって屋敷を抜け出してこっちに来るのはいつものことだしな。あーやっぱり一番面倒な人が来ちゃったよ。それにしてもザンザスよく起きないな…殺気がないからいいのか?
とりあえず服を着て獄寺くんに声をかけよう、そう思って下半身をベッドから下ろした瞬間、扉は開いた。

「あ、」
「っ十代目!やっぱりここ、に…」
「あ、の」

たぶん全裸の俺がまず映って、そのあと隣のザンザスが見えたんだと思う。あいつは上裸で、触るなと言ったのにちゃっかり俺を腕枕して寝ていたからこちらに腕が投げ出されいいる。なんというバッドタイミング。

「し、失礼致しましたっ!!!」

彼は開けた扉の向こうに逆戻り。
まぁその後俺とザンザスは後からやってきたリボーンに散々説教をくらって(もちろん俺は床に正座、ザンザスはテーブルに足まで掛けて椅子に座っていた)引き摺られるようにしてボンゴレ本部に連行された。


とりあえず、獄寺くんはいい加減俺とザンザスのことに慣れてほしいと思う。





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