誕生日なんて好きじゃなかった。
その日はボンゴレに来てから毎年盛大なパーティーが開かれて、裏の世界の重鎮や政界の大物、その他よく知りもしないお偉方に愛想を振り撒かなくてはならない日。「おめでとう」と皆口を揃えて言うけれど、誰も俺を祝う気持ちなんて一握りほども無い。あわよくば取り入ろうとする汚い奴らの集まる酷くつまらない、不愉快なイベントだった。
毎年来るその日は、あの時母親に捨てられた自分を思い出す。
母親と二人で暮らしていたあの家はとにかく貧しくかったけれど、とても幸せだった。いつも笑顔の絶えない母、二人で寄り添って眠るにはちょうど良かった小さいベッド。豊かさとは程遠い生活ではあったけれど、毎日が幸せだったあの頃。それがいつしか彼女は精神を病んで、そして酷い妄想に取りつかれ俺をボンゴレ9代目に預けた。それから彼女は程なくして死んだらしい。
「ボス候補」を、「九代目の後継者」として必死に、ただひたすら必死に生きてきた自分。
俺はずっと信じてきたんだ。俺は九代目の子、正統なるボンゴレの後継者。俺は誰かに劣ることは許されなかったし、他の誰よりも優れていなくてはならない。大ボンゴレの]世として恥じない人間にならなくてはならなかった。
また、捨てられない為に。
「…ザンザス」
目を開けると目の前に綱吉の顔が見えた。
「どうしたの?」
「ん?」
「泣いてるよ。何か悪い夢でも見たの?」
綱吉の細い指がそっと俺の頬を拭う。
綱吉が翌日は10月10日、俺の誕生日だからと無理やり休みにしたのだと言っていた。職権乱用だろうと言ってやったけれど、本当は嬉しかった。前倒しで出来る限り仕事を片付けてきたのだろう、とても疲れた様子だった綱吉と少しだけ酒を飲んで、久しぶりの休日の明日は何をするんだとか散々喚いたあとベッドに入った。
「大丈夫?」
不安そうに瞳を揺らす綱吉の頭を右手で撫でる。触り心地のいい猫っ毛の髪をくしゃりと撫でると綱吉は少しだけ安心したように笑った。
それから何か思い出したようにベッドを這い出る。
「ザンザス、」
「どうした?風邪ひくぞ」
パタパタとベッドへ戻ってきてもう一度潜り込む。めいっぱい擦り寄ってくる温かさをぎゅっと抱きしめると、ちゅ、と音を立てて綱吉の唇が重なった。
「お誕生日おめでとう」
「もう変わったのか」
「うん。俺、今年も一番に言えたね」
「そうだな」
「来年も再来年も、ずーっと俺が一番に言えるといいなぁ」
温かいベッドの中、愛する綱吉のぬくもりを感じて向かえる誕生日。
嫌いだった日が、大切な日に変わる。
大切な思い出に変わる。
Grazie per essere nato
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