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知られたくないことってある。学生の頃は、例えば引き出しの奥に隠した0点の解答用紙とか、押しつけられた(あくまで押しつけられただけなんだからな!)いかがわしい雑誌だとか。自分が知る限りではばれる前に処分出来たから大丈夫だったはず。
そんなものとは同列ではないけれど、今まさにこの状況は知られたくなかった。特にこの男には。タイミングがとにかく悪い。こいつはいつもそうだ。なんだって嫌がらせのように今来るんだろう。
「こんなとこに居やがったのか」
日本支部を作る際に俺が進言して作らせたトレーニングルーム。そんな事態には出来るだけなりたくはないが、いつ何時襲われたりしかねないファミリーの為の訓練施設だ。
どうしてこんな所にいるのかって、それが正に知られたくないことだったんだけど。
「ザンザス、いつ日本に来てたんだよ」
「今朝だ」
「…報告?」
とりあえず話の方向を変えよう。
「穏健な10代目ボス様が訓練か?」
ですよねー。あえて空気を読まない男ですよねこいつは。知ってた。知ってたよ。ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。ああ、そう来ると思ったよ。ザンザスは羽織っていただけだったコートを床に投げ捨てて準備運動とばかりに首を鳴らす。
そう、この男はいつも「体が鈍る」と文句を言ってきてはその責任を取れと勝負を要求するんだ。
「やだよ、前に執務室壊滅させて獄寺くんにすげー怒られたんだからな!」
「煩ぇ、知ったことかよ。ここならある程度なんとかなるだろ」
「そうじゃなくて」
「ごちゃごちゃ煩ぇな」
愛用の2丁拳銃を今にも打ち込んできそうな程の殺気。目は肉食獣のそれで、口元は楽しそうに口角が上がって。
「大体、訓練なら相手がいた方がいいだろ?俺が‘本気で’相手してやるよ」
「頼んでないってば。たまにはやんないと感覚忘れそうだったからちょっとここ来ただけだし」
それも本当。俺は穏健と言われてて滅多に争いはしないけど、俺だって大ボンゴレのボスだ。ファミリーを守らなくちゃいけない。守りたい。俺にはとても信頼出来る守護者がいるけど、守られるだけは嫌だ。俺だって皆を守りたいし、その為なら俺だって持てる力は全て使いたい。
だからこうやってたまに、獄寺くんやリボーンの目を盗んで書類を放り出してここへ来る。
「体が鈍って感覚を忘れそうなのはこっちも同じだって言ってんだよ」
「ちょ、やっぱ自分の為じゃん!」
「そうに決まってんだろうがカス!」
言うが早いか、ザンザスの愛銃が火を噴いた。死ぬ気の炎だ。
「あっぶないなぁ!」
「‘本気で’相手してやるっつってんだ、テメェも本気できやがれっ」
「ったく、だから知られたくなかったのに…」
後で分かったことだけど、ザンザスがトレーニングルームに来たのは山本の告げ口だったらしい。まったく余計なことをしてくれる。
それに、確かに構造的に他の場所より頑丈に出来てはいたが勿論トレーニングルームは半壊して、それによって全部ばれて、俺とザンザスはこってり1時間獄寺くんとリボーンに絞られた。相変わらずザンザスは態度もでかくどこ吹く風としていたけど、俺は「ザンザスがあんな態度なのはお前が頼りないからだ」とリボーンにネチネチやられている。
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