※1X年後


朝方ふと目が覚めると、ベッドの中に小さな来訪者がいた。
いつもは後ろに撫でつけている黒髪が顔にかかっていて、美しいけれど本当は幼い顔立ちの少年が年相応に見える。

(いつの間に…)

マフィアのボスなんてものをやってはいるが、そのお陰で逆に安全な生活を送っている自分は少しばかり警戒心というものが足りないかもしれない。と思った。

この少年は自分の家庭教師だったリボーンだ。出会った頃は赤ん坊の姿で、世界最強のヒットマンなどと豪語し俺の日常をハチャメチャなものにしてくれたものだ。疑い半分(いや、八割方嘘だと思っていた)で始まった「マフィアごっこ」だったけれど、気が付くと、あの頃はいつも一人ぼっちだった俺が本当にマフィアのボスなんてものをやっていて沢山の人間に囲まれている。普通の中学生だった俺が、理解しがたいような能力を使う敵に襲われたり望んでもいないボスの座を掛けて闘ったり…当時は「なんで俺が」と思っていたけれど、今思い返すとあれもいい思い出だ。

俺はアルコバレーノの呪いを解くことに躍起になった。世界中のありとあらゆる文献を取り寄せて、それこそオカルトや都市伝説のような文献も読み漁った。時間も費用も掛ったけれどその努力が実を結んでなんとか呪いを解くことには成功したけれど、彼の姿は何も変わらなかった。赤ん坊の姿から本来の大人の姿に戻れるはずであったのに、彼は赤ん坊の姿から少しずつ成長を続け、呪いを解いてから10年。今彼の外見は11歳の少年でしかなかった。

仕事が終わってそのまま俺の部屋に入ってきたのだろう、ワイシャツ一枚で潜り込んでいたリボーン。きっとベッドの下にはトレードマークの黒スーツと帽子が散らばっているに違いない。

(ごめんね)

そっと髪を撫でると眉間に皺が寄って少し身じろぐ。自信と嫌味に溢れた言葉ばかりを歌うその口から洩れる声も幾らか幼げで、思わず頬が緩んだ。それから長い睫を揺らしながら瞼が動き、ゆっくりと漆黒の瞳が現れた。

「ごめん、起しちゃった?」
「……」
「仕事お疲れ様」
「…ああ、」

まだぼんやりとしたリボーンはパチパチと瞬きを繰り返している。

「帰ってきてそのまま俺の部屋に来たの?」
「…だろうな」
「どうせ脱ぎ散らかしてベッド入ったんでしょ?スーツがまた皺になっちゃうよ」

左腕でリボーンを抱き寄せてキス出来そうなほど近くまで顔を寄せる。
やっぱり睫長いなぁ。こんなに近いと分からないけど、顔も凄く整ってて、ヒットマンになんてしておくのが勿体ないくらいだ。

「ツナがスーツは脱げって言ったんじゃねーか」
「だって、スーツのまんまは寝にくいでしょ」

本当はいくつなのか分からないけれど、こういうところは外見年齢にふさわしいくらい子供っぽいと思う。ムスッと眉間に眉を寄せて口をへの字にするところなんてまんま子どもだ。思わずクスッと笑ってしまう。

「まだ眠い…」

リボーンが大きく欠伸を一つ。
もしかしたら彼がベッドに潜り込んでから少ししか経っていないのかもしれない。

「そうだね、もう少し寝よっか」

返事のかわりに体をすり寄せて瞼を閉じる。

「おやすみ、リボーン」

無防備なおでこにちゅ、とキスを落として俺もあと少しの惰眠を貪った。




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