キス、していた。
自分の目には大野のきつく閉じられた瞼だけが見えて、そのおかしさに気付くと唇に柔らかい感触。あぁ俺今大野にキスしてるんだ、と思った。男同士で何してるんだとか、大野には彼女がいるのにとか、色んなことが走馬灯のように頭を過ぎ去ったけど、全部無視した。
怯えたような大野の瞳がゆっくりと俺を映して、俺も離れた。

「――す」
「ごめん」

不安色に揺れている大野の瞳を見て俺は何て事をしてしまったのかと後悔した。頬に添えていた右手も離す。

「ご、ごめんっ!俺…!ほんとごめん!!」

俺は壊れたCDプレイヤーみたいに何度も謝った。じっと俺を見つめていた瞳が伏せられて、うっすらと口が開かれている。

「すぎやま、」

それはあまりにも小さくか細い声で、それでも俺たち二人しか居ないこの部屋ではぎりぎり聞こえるくらいの大きさ。

「杉山。俺、高校に入って…サッカー、やめたんだ」

ぽつりぽつり途切れ途切れで話す声をしっかり聞きとる。大野の姿は抱きしめてしまいたいほど頼りない。けれど、今手を伸ばしたらまた怯えられてしまいそうでシーツの上で堅く握った。

「俺には才能、なくて。中二の時、気付いたら後輩がレギュラーんなってて…俺試合、出れなくて」

声が震えている。あぁなんと頼りないのだろう。大野は確かにあの時、再会したあの日、今と同じだった。伏せられて見えない両の瞳からツゥって涙が流れる。

「全然勝てなくて!俺じゃ駄目で!…ベンチで見てるのが辛くて、」

肩も震えている。泣いている。俺はそっと、また右手を伸ばした。拒絶されるかもしれないと思ったけどもうそんなことどうでもよかった。目の前の彼が愛おしかった。肩に触れると彼は一瞬ビクッと反応したが拒絶はされなかった。俺は左手も肩に触れる。

「大野、」
「俺、逃げたんだ…もう嫌だったん」
「もういいっ!いいよ!!」

きつく抱き締める。彼は震えていた。嗚咽混じりの声が泣き声に変わる。





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