きっと杉山に他意は無かったんだとは思う。でも俺にはかなりのプレッシャーで。
「大野の部屋、なんか頭良さそうだな」
受け取ったグラスを傾けている杉山。視線がまだ部屋を彷徨っている。
「そうか?つか部屋に頭良さそうとかあるのかよ」
そう笑って言うと、杉山が立ち上がってこちらに来る。物の多い狭い部屋だから彼が机に到着するのは一瞬で。
「机の上にこんなに教科書とか乗ってるしさ。本棚にも参考書とか入ってるし」
ほんの数センチのところに杉山の体があって、俺はなんだかドキドキした。杉山の節くれだった手が伸びて机の上の問題集にかかる。思わずその動きをじっと見つめていたら視線に気づいたのか、彼がこちらを見た。バチッと視線がぶつかって、俺は息をのんだ。
「なに?」
「いや、なんでも…」
なんだこれ。すげぇドキドキする。心臓の音が煩い。自分の体じゃないみたいにコントロールがきかなくなって、俺は弾かれるように椅子から降りてベッドの上に移った。
「え、なに?」
杉山は驚いて問題集を元の場所に戻しつつこちらを見る。それはそうだろう、いきなり移動されれば俺だって不思議に思う。
「あ、もしかして俺汗臭い?一応シャワー浴びて来たんだけどさ」
「い、いや、大丈夫」
「じゃあなんだよ」
ちょっと怒ったような口調で今度はベッドに戻ってくる。せっかく離れた距離が縮まる。来るな。
「大野?」
来るな。
眉がキュッと寄って息も苦しくなる。怖い、なんだこれ。
杉山は怪訝そうな顔をしてベッドに乗り上がってきた。一番ギリギリ端に座っている俺に近付いてくる。
「……大野、」
右手が俺に伸びてくる。心臓がますます早鐘を打つ。俺は怖くて怖くて目をぎゅっときつく瞑った。
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