※3年後設定
このクソ暑いのに、余計に暑苦しいのが来た。
「ハァイ、ドン・ボンゴレ。お元気?」
語尾にハートマークでも飛ばしているような甘い口調とは違い、目の前にはとても厳つい男が立っている。背はスラリと高く、均整のとれた筋肉質な体つき、そして少し濃いめに色のついたサングラス。
「……どうしたの、ルッスーリア」
「休暇よ、休暇。お休み貰ったからジャッポーネにショッピングに来たの」
日本は世界的なデザイナーも絶賛するファッション文化なのだそう(前に何かのテレビ番組で見た)でこの彼も度々来日してはそれはもう驚くほど散財していくのは知っているが、何故家にまで押しかけて来てるんだ。
玄関先にずっと居るわけにもいかず、とりあえずリビングへ通して俺は二人分のグラスを取った。
「突然ごめんなさいね」
そう思うのなら連絡ぐらいよこせ、と思うがどうせこの辺の連中には言っても無駄なのだ。
ルッスーリアが持ってきたケーキの箱を開けると丸まる一つのホールケーキだった。沢山のイチゴが乗ったショートケーキ。うちは家族が多いから気を使ってくれたんだろう。二人分切り分けて皿に移し、残りは冷蔵庫へ仕舞った。
「ツッくん一人なの?奈々さんや他の子たちは?」
「みんなで出掛けてるよ。俺は暑いからパスしたんだけど」
幾つかの氷と麦茶を注いだグラスとケーキ皿をトレーに乗せて俺もリビングへ。ルッスーリアはすっかり寛いでソファーから長い脚を惜しげもなく投げ出している。嫌味なくらいのスタイルだ。だいたい、イタリア人のザンザスもスクアーロも、ベルもレヴィもみんなスラっと背が高くて脚も長い。スタイル抜群だ。腹立つ。(あれ、ベルって王族とか言ってたしイタリア人じゃないのか?まぁいいか。)
「あら有難う。ジャッポーネの夏って湿気が多くてイヤね。」
「イタリアはカラッとしてる?」
「そうね。暑いけど、こんなにべたべたする感じじゃないわ」
ルッスーリアのグラスがカラリと音を立てる。氷もあっという間に溶けそうだ。
「みんな元気にしてる?たまにはヴァリアー邸にも顔を見せに来てちょうだいね」
あのリング戦からこっち、長い休みになると俺たちはイタリアに渡っている。
最初は初めての海外にわくわくもしたけど、向こうでは観光する時間も無く執務に追われパーティだなんだと連れまわされてあっという間に帰国。本当はヴァリアーの皆にも会いに行きたいという気持ちもあるのだが、毎回それどころでは無いのだ。
「うん、みんな元気だよ。山本はね、今年甲子園に行ってるんだよ」
「コウシエン?」
「全国高校野球大会。山本の学校、けっこう勝ち進んでるんだよ」
ちょうど昨日もうちのテレビで獄寺くんも一緒に応援した。山本はホームランこそ打てなかったけど、毎打席塁に出て勝利に貢献していた。
「そうそう、今朝はロードワーク中のお兄さんに、あ…京子ちゃんのお兄さんに会って」
ルッスーリアはお兄さんのことを凄く気に入ってるみたいだからお兄さんの話も。
俺が話している間ルッスーリアはずっとにこにこと聞いてくれた。たまに茶々を入れたり笑ったりしながら。
「そっちは?ヴァリアーのみんなは元気?」
まぁ彼らが元気じゃないなんて想像は出来ないけど、俺だって随分会っていないから気になる。
「元気よー。最近暇だからみんな退屈してて、ボスのスクアーロへの虐めも酷いものよ」
楽しそうに笑うルッスーリア。
「ま、アタシ達が退屈なのはイイコトなんでしょうけどね」
ヴァリアーは暗殺部隊だ。みんな人間味溢れるいい奴らだけど、彼らの仕事はあくまで暗殺。簡単に言えば人殺し集団。
リング戦直後本部は他ファミリーからの攻撃などでバタバタしていて、謹慎処分中だったヴァリアーも駆り出されて大変だったらしいが、最近は割と穏やかそうだ。
俺たちは近況や笑い話なんかを話しながら久々の再会を満喫した。
「あら、もうこんな時間?」
俺も壁に掛った時計を見る。17時を少し過ぎたところだ。
「そろそろ皆帰ってくる頃かしらね。アタシはもうお暇しましようかしら」
「え、夕飯食べてかないの?」
ルッスーリアは微笑んだ。こういう顔をされると深追いできないから俺は渋々了承する。なんだ…夕飯はもっと楽しいだろうに、と思った。
テーブルに置いていたサングラスを掛けて立ち上がったルッスーリア。やっぱり格好いいなぁと思って見ていると「なぁに?アタシがカッコイイから見惚れちゃった?」とからかわれた。
「だって俺、相変わらず背も低い方だし、筋肉も付かないんだよ」
「了ちゃんと一緒にロードワークでもしたら?」
「嫌だよ!あれすげー辛いんだもん」
即答したら笑われた。だって試したことあるんだ、やっぱりあの人もタダ者じゃ無かった。
見送りは玄関までで言いというルッスーリア。玄関先で靴を履いたルッスーリアは段差の上に立っている俺を振り向いた。
「またね、ツッくん」
「うん。次こそはヴァリアー邸に行くよ。…なるべく」
「待ってるわ…親愛なるボンゴレX世」
ルッスーリアは俺の左手の甲に恭しくキスをして俺を見上げた。段差になってるはずなのに俺とルッスーリアの目線は同じくらいで少しムカついた。
こうして、暑苦しい真夏の太陽のような彼は帰っていった。
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