※高校生(not学バサ)


政宗はズズッと焙じ茶を啜る。
目の前には、幸せそうな顔をして今まさに黒蜜の掛かったバニラアイスクリームを頬張ろうとする幸村。向かいの席に座ってクリーム餡蜜を食べている。
甘味に目がない幸村がいち早くチェックしていた甘味屋は、あまり目立つ場所ではない路地を入った所にあって若い男二人では入りにくいのではという心配をよそに、若い女性客で溢れているようなポップな店ではなく落ち着いていて心休まる日本家屋風の店だった。その雰囲気を気に入った二人は学校の帰りに時たま寄るようになったのだが、幸村のように甘いものをそれほど特別好まない政宗は二度に一度は甘味を頼まなかった。
政宗がそれでもこの店に立ち寄ろうというのには些か下心があってのことであった。

「やはり此れにして正解でござった!バニラアイスと黒蜜の相性は抜群でござる!」
「それは良かった」

これまで何度か自分が奢ってまでここへ来る理由はずばり、幸村の眩しいくらいのその笑顔を見るため。
笑ったり怒ったり表情のくるくる変わる幸村も、甘味を頬張るその顔が一番幸せそうに微笑むのだ。欲を言えば自分にその笑顔を向けてほしいのだが、それはもう少し先までとっておく。

「政宗殿?」

思わず自分の口元も緩みそうになるのを堪えていたら、幸村の視線がクリーム餡蜜から政宗に変わった。

「Ah?」

大きな瞳を何度か瞬かせて不思議そうに向けられた幸村の視線。

「いつも某ばかり…政宗殿は甘いものはお嫌いなのですか?」
「嫌いじゃねぇが、特には――」

湯呑みを置いて言葉を続けようとした政宗の返しに、幸村はにっこりと微笑んで、

「では、どうぞ」

掴んだスプーンに黒蜜をたっぷりと纏った寒天を乗せ、ずい、とそれをこちらへ伸ばしてきた。勿論そのスプーンは未だ幸村が握っており、さしずめ「あーん」と恋人同士が恥ずかしげもなく繰り広げる光景に酷似していた。

「さぁご遠慮なさらず、政宗殿」

政宗が予想だにしない幸村の行動に目を見開きその一瞬あとに耳まで真っ赤に染め上げたのをどう勘違いしたのか、幸村はもっと手を伸ばしてくる。
自分の顔が熱くなるのを誤魔化そうと一度目元を左手で覆い隠し大きく深呼吸した政宗は胸中で「coolに…coolに…」と呪文のように繰り返し、意を決してそのスプーンにかぶりついた。



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