※フリーター元親×大学生元就の同棲物語
休憩中にいつもどおりロッカーから携帯を取り出したら、元就からのメールを受信していた。めったにメールなど寄越さないあいつがどうしたのかと開いたら「熱があるから帰宅した」と簡潔に一文。慌てて店長に頼んで早めにバイト先を上がった。
あいつのことだからきっと薬だって買ってきていないだろうしと薬屋に寄って薬剤師に相談して発熱に効く錠剤を購入し、ふと見たレジ横の冷ケースのプリンも会計に足した。
鍵を開けて部屋へ入るとしんと静まりかえっている。もちろん真っ暗だ。ビニール袋をリビングテーブルに置いて寝室を覗くと、元就はベッドの中で寝息を立てていた。そっと扉を閉めてリビングへ戻り見回すが何か食べた形跡はない。メールが14時過ぎのものだったから、少なくともそれ以降は何も口にしていないらしかった。
「元就、」
優しく声を掛け髪を撫でる。
何度か呼び掛けるとぼんやりとした瞳がこちらを見た。
「ちか…」
「おう、大丈夫か?」
「ん、」
色白の元就の頬は熱で少し朱に染まり、吐く息も重い。平熱の低い元就は七度に掛かるくらいの熱でもフラフラしやがる。
「とりあえず熱計れ。そしたらちょっとでもいいからお粥食って、薬な」
ポンポンと優しく頭を撫でてやる。
体温計を渡すと元就はおとなしく熱を計る。ほんの少ししてピピッと音がして、差し出されたのを確認すると六度八分だった。うん、これくらいならまだ起き上がれそうだ。
「あまり食欲がない」
「なんか食わねぇと薬飲めねぇだろ?プリンも買ってきてやったから、お粥食ってからな」
プリン、の言葉に反応して元就はゆっくりと起き上がる。
これならまぁ少しは食べられそうだ。俺は安心して微笑んだ。
パジャマ代わりのスウェットの上から元就にはデカい俺のパーカーを羽織らせてリビングへ移動する。日が入りにくく少し肌寒いそこには既にエアコンを入れてあって、元就をテーブルに座らせて俺は火の止まったコンロから一人用の小さい土鍋をテーブルへ移す。それから茶箪笥から茶碗とレンゲを一組取り出して、土鍋から温かいたまご粥を掬った。
「食えるだけでいいからよ」
ほんの少しの塩のみで味付けされたそれはきっと元就には物足りないだろう。味覚がやられていたら殆ど味がしないであろうそれを、けれど元就は二口三口と口へ運んだ。
冷蔵庫から出した麦茶をカップに注いで、もう一つのカップにやかんから白湯を注いだ。冷蔵庫を開けたついでにプリンも取り出してテーブルへ運ぶ。
茶碗に半分ほどよそったたまご粥を平らげて茶碗を置いた元就におかわりを告げたが小さく頭を振った。その視線はじっとテーブルの上のプリンに注がれていた。思わず苦笑してそれを取ってやると嬉しそうにするから、俺は真向かいに座って嬉しそうにプリンを食べる元就を眺めながら土鍋に残ったお粥を元就の茶碗とレンゲで食べた。
空になったプリンカップにプラスチックのデザートスプーンをからりと入れて手を合わせて「御馳走様でした」と呟いた元就に先ほど買ってきた薬を説明書を読みながら三錠渡した。
それからベッドに戻って頭を撫でてやっていたらあっという間に眠りについた。顔に掛かる髪を指先で流して、一つ額に口付けた。
「早くよくなれよ」
俺は起こしてしまわないようにそっと扉を閉めた。
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