※フリーター元親×大学生元就の同棲物語


小さくバイブする携帯を止めて俺はベッドから這い出した。
隣に眠る元就を起こさないよう―と言っても元就は物音くらいでは起きないのだが―にそっと抜け出しキッチンへ。俺しか飲まないからとリッターパックから直接牛乳を胃に流し込んでから流しでじゃばじゃばと顔を洗う。
時刻は6時。今日は一限目から授業があると言っていたからもう起こさねばならない。俺は一度大きく伸びをして寝室に戻った。

「元就、起きろ」
「んん…」

まぁこれで起きる彼でないのはよく分かっている。
眉間に薄く皺を寄せて身じろいだ元就の顔に掛かった長い髪を手で払い隠れていた左目の瞼にそっと口付けを落とす。それから優しく頭をポンポンと叩きもう一度声を掛ける。

「おい元就、もう起きろ。時間だぞ」
「……」
「今日は一限からだろ、ほら!」
「あと5分…」
「遅刻すんぞ、オラ」

肌掛けを少し乱暴に捲り上げてそれでも瞼を開けようとしない元就に最後通牒。

「起きねぇと襲うぞ」

寝間着の下へ脇腹から右手を差し入れて厭らしくツツ、と滑らせると、眉間の皺を深くさせゆっくりと瞳を開ける。

「…離せ、起きる」
「はいはい、すぐ来いよ?」

まだ夢現の元就がむくりと起き上がるのを確認し俺はリビングキッチンへと引き返した。
冷蔵庫からフルーツヨーグルトと野菜ジュースを取り出して、野菜ジュースは二人分のグラスに注いだ。俺の朝食は元就を送り出してからだからとりあえずは準備しなくていい。
洗面所で顔を洗ってきたのであろう、長い髪をゴムでまとめ少し不機嫌そうにした彼が席についた。無言で野菜ジュースを少しだけ喉に流し込むのを横目に見ながらスプーンを取り出して渡すと、これまた無言で受け取りヨーグルトに口を付けた。
途端夢現だった元就がかっと目を見開いた。

「このヨーグルト甘くないではないか!貴様、我をたばかるとは…良い度胸よ」
「アンタが選んだんだろ、俺のせいにするな」
「ヨーグルトの製造会社にも言っているのだ!」

ジリジリと鋭い視線を背中に感じながら俺は自分の朝食である食パンをトースターにセットし時計を確認する。
食べ終わりヨーグルトの空容器とグラスをそのままに寝室へと戻る元就をよそに俺は自分の朝食を取る。野菜ジュースとバタートースト。食パンは最後の一枚だったから今日帰りに買ってこよう。
暫くして外出着に着替えた元就がリビングキッチンに戻って来ると俺が付けたテレビに釘付けになって目を見開いている。

「今日はこのまま雨…既に曇っているのに雨だと…!それでは日輪が拝めぬではないか!」

気にすることはない、いつもの発作のようなものだ。しかし放っておくと「今日は外出せぬ!」などと言い出しかねないのでショックにより取り落とした鞄を拾い上げて元就の背中を玄関まで押していく。

「我は日輪の申し子なり…雨など…」

ブツブツ呟いている元就に靴を履かせ鞄も押し付けると額にほんの少し触れるだけのキスをした。

「デザートにあんみつ買ってきてやるから」

髪をわしゃわしゃと撫でると「止めよ!」と手を払われたが、仕方なく納得したのか小さく「では行ってくる」と吐き捨てるように言い漸く出て行った。



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