リボーンや獄寺くん、その他のお目付け役に口酸っぱく言われているここはいつだってすごく綺麗に整頓されているけれど、俺は今無性に部屋の掃除がしたい。それも大々的に。年末の大掃除張りに。
学生の頃、定期考査が近付くと突然部屋の掃除や片付けがしたくなったことがある人は多いと思う。
つまりそういうことだ。執務机の右側には書類の束。左側にはたった三枚。お分かり頂けるであろう、どちらが片付いたもの置きでどちらが未処理のものか。
朝から辞書片手に必死に処理をしているのにまだ三枚。全く以て自分の能力値にはうんざりだ。

「はぁ…」

俺は握っていた万年筆を大げさに机に落とした。
首を左右に倒すとバキバキといい音がして、両手を上に伸ばす。思わず「うーッ」と声が出た。
チラリと時計を見るともうすぐ15時。昼食休憩から二時間も経っているのにまだ一枚も左の山には足されていない。
俺はもう一度大きくため息を吐いた。

駄目だ。とりあえず休憩にしよう。
今日はハルが差し入れてくれたナミモリーヌのケーキがある。甘い物でも食べて頭に糖分を回して、気分をリセットすれば少しは進むはず!そうに違いない!俺は自分を無理やり納得させて椅子から立ち上がった。

その時、ノックも無く不躾に扉が開かれた。

「書類持って来たぞ」

ノックの無い限られた人物の中からの一人、ザンザスだった。
清々しい顔で立ち上がっていた俺を見たザンザスはこれ見よがしに普段以上に眉間に皺を寄せてギラリと俺を睨む。
ええ、分かっています。分かっていましたとも。俺がサボろうとしていたの完全にばれましたよね。

「またサボってやがったな」
「……まだサボってない」
「これからサボろうってのか。そうか良く分かった」

ザンザスの鋭い眼光に睨まれると俺も結構きついって言うか…いやでも今日はちゃんと仕事してたし!サボろうとしてたんじゃなくてちょっと休憩して効率を上げようとしてただけだし!

「ザンザスも、ケーキ食べる…?」

めいっぱいの笑顔で聞いてみる。けれどザンザスの顔は少しも緩まず、寧ろますます鋭くなった。まぁこいつに俺の営業スマイルが通用しないことは知ってるけど。

「ザンザスも疲れたでしょ?30分だけ、一緒に休憩していったら?」
「……30分だからな。」
「うん、30分だけ。」

そして俺には少しだけ甘くしてくれることも知ってる。

俺は急いで二人分のコーヒーを準備して、それから小さめのケーキ皿を二つ来客用の応接セットに置いた。
ハルが買ってきてくれたケーキの箱は備え付けの冷蔵庫に入っているから、今度はそれをテーブルに移動させ、箱を開けてみる。中には美味しそうなケーキが4つ。ショートケーキとフルーツタルトとロールケーキとミルフィーユ。どれも美味しそうで迷うなぁ。

「お前はどれにする?」
「どれでもいい」

ザンザスは甘いのそんな得意じゃないから、ロールケーキかなぁ。
俺は…うーん、悩むけどフルーツタルトかな。
二つを皿に移して、一つをソファーに座ったザンザスの方へ。ザンザスに向かい合う形でその前に座った。

「いただきまーすっ」

俺が言うよりも早くザンザスの手はコーヒーカップへ伸びていた。

「うん、おいしい!」

口いっぱいに頬張ると程良い甘みが口の中に広がる。冷たいゼリーと甘酸っぱい苺、それから触感のいいタルト生地。やっぱりナミモリーヌのケーキは最高だ!
俺が幸せに頬を緩ませている間、向かいのザンザスはケーキには手を伸ばさずコーヒーを啜っていた。

「食べないの?」

俺がそう問いかけるとめんどくさそうにロールケーキを手で掴んで、一口頬張った。

「どう?美味しい?」
「フォーク」
「え?」
「落ちるぞ」

視線を下げると俺のフォークから今まさにケーキが落ちるところで。

「わっ…!」

と声を上げた時にはケーキは脱走。しかし運よく構えた皿にダイブ。惨事にはならずに済んだ。
俺はふぅ、と息を吐いてもう一度落としてしまったケーキの欠片を刺したが一度刺していたそれは見事に割れてしまった。俺はムキになってまたフォークを刺してみたが、勿論それも割れてしまった。

「…ククッ」
「なに笑ってんだ。」

ザンザスの抑えた笑いにジトリと視線を投げると、ザンザスはすっかりケーキを食べ終えた後で掴んでいた右手の親指と人差し指をべロリと舐めた。

「てめぇは相変わらずオコサマだな」
「手で食べてる奴には言われたくないよ」

イーッとしかめっ面をして見せたがザンザスは余計に笑っただけだった。





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