男泣き | ナノ




eye


「めぇ、なくしてみてよ」
 斜めの方から音がしたので振り向くと、そこには思った通り竹本がいる。その形を見なくても竹本が竹本であると気付いたのは音で声で耳で聞いた、竹本の複数の部分を記憶していたその一部、を再生した。ああ、この声はと。
 竹本はいつも真夏でも寒そうに見えた。一切の音がしない今に、答えを待たれているのがわかったけれど、その言う「めぇ」というのも、無くしてというのも、その二つに分けられそうな言葉の意味がよくわからなかった。じいっと見られる。少し間が空いて今度はぱちんと「め」と、もう一度竹本が言う。その瞬間にちらりと見えた口元から覗く白い歯に気を取られて、それから、竹本の声で「め」という音がもう一度頭の中で再生された。ああ、目の事か。それで何だ、なくせ、ってつまり目を失くせって事か、ああ。意味が分かってはじめて混乱する。何を言っているんだろうコイツは。
「なんで」
「なんでもないけど」
「意味わかンねえよ」
 竹本は俺の目をじっと覗き込むようにしてみる。そのまま止まって何かを考え込んでいるようにも思えた、竹本は、顔が近くにあっても呼吸の気配をいつも感じない。
「キレイだね」
 つめたい指先が目の下の薄い皮膚に触れる。竹本の声は小さくて聞き取りにくい。俺は目を瞑った。こればっかりは、お前にだって渡せない。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -