男泣き | ナノ




さよなら四月


 憧れっていうのは簡単に死ぬけど、まあ、お前は運よく生き残ったよね。四月、ですけど、さよなら。
 好、っていう字が嫌いで、何故かそのバランスの難しさやら字面の醜さやらで、今消しては書いて書いては消してを数回繰り返し、その部分だけぼんやりと薄黒くなにやら不安定に汚れているわけ。妥協してさっさとその続きを書いたわけだけれどもそれからも書かねばならぬ文字を書いているのだけれども頭の脳みそだけはずっとずっと気になって仕方なくて悔しくてなんか、面倒くさい。でも、そう。この面倒くささって何かに似てる。思い出す事はないけど。
「黄瀬」
 独りの沈黙も知らず右の鼓膜にいらっしゃった音は確かに彼の声。
「なんすか」
 乾いた口の中で音を作ってあげて、そう、返す。
「何書いてんの」
「ラブレター」
「ふうん」
 会話みたいなやり取りが終わってもう一度文字を書く。だけどアナタは、で止まっている。続きを用意していたはずの腕と脳は残念ながら忘却、全て、戻らない。でも困ることはなく次が産まれて、書く。
「読ませろ」
「ダメっす」
 後ろの俺の曲がった背中にあたたかい体で覆い被り、手を伸ばす。この何気ない春に殺される人もいて諦めだけが正しい。目を見ることは二度とはない、彼はそう、この手紙を読む事もなくいつかどこかで輝く。憧れて焦がれて堪らなかった人がいて、でもそれが途端に別の身体のどっかに移って、変化を遂げる時があった。俺の中の青峰っちは、確かに今もそこにいて、未だに名前がついていない。







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