ゴミ
「お前のせいじゃないよ」 ソファは張りが強くて硬くてつめたい、けど奥には確かに沈むスプリングがあって動くたびにぎしぎしと音を立てて、音を立てて、目の前の、や、目の下に沈む男は目を閉じたり開いたりを繰り返して、動くたびにスプリングとはまた違う音を立てる。歯の奥が痛むのと同じ事ではないようで、なくない、その意味。 「じゃあ誰のせいなんだよ」 「ん」 「誰、のせい」 「誰も悪くはないよ」 中途半端に伸びた髪はごわついているし、無精ひげも、なんだかそれだけで身体の真ん中の裏の辺りがざわついて悲しいように思うわけ。誰のせい、なんてそんなの本当は何にもならない、空っぽで傲慢で病気みたい、そういう全ての根源、全部捨ててしまおうって、そういえば今日はちょうど第三火曜日、燃えるごみの回収日だ。けど、誰のせい、ことこの責任転嫁自己都合主義の悪の根源人類の底みたいなこの感情及び意思、思想は果たして燃えるごみの分類であっていいのかなんて呑気に思う訳で、だってもし万が一回収されずに取り残されてそこにあるままだとするなら、それだけで絶望だ。しかし窓の向こうをみずともわかるこの色で、もう今は昼過ぎで、正しくは二時で、ごみの回収車などとっくに帰ってしまっているので一切関係のない事なんだねって少しだけほっとするんだけどこの思考の最中にだってずっと。 「捨てられるもんなら捨てたいね」 「なにが」 「間違っても、愛してなんかないからな」 「今言うの、それ」 「俺のせいじゃない」 「そうだね」 そうして短い息と、行天の白く骨ばった肩が、大きく跳ね上がった。
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