05

気を抜いていた。油断していた。

確かに咳は止まらなかったし気だるさは続いていた。
だけれどリヴァイさんのおかげもあって体調はよくなっていた。筈だったのに。

熱をぶり返した。
食事が喉を通らない。吐き気がした。
自分の悲鳴で目が覚める。ひどい悪夢を見る。
震えが止まらなくて涙が出てきた。
頭が痛くなってお腹が苦しい。
辛さに耐えきれなくなって手を握り締めたり足に爪を立てる。
白んで赤くなる皮膚に大きく息をついた。

体調が悪くなると精神的にもずっくりとくる。
このまま死ぬんじゃないだろうか。こんなところで。
お母さんやお父さんはどうしているだろうか。
悲しい、だとか辛いだとか、そんな感情がごちゃごちゃする。

リヴァイさん、は決して悪い人ではない。
いや、優しい人だ。きっと。多分だけど。
でも、怒らせたらどうなんだろう。怒ったらきっと怖い。
もし、怒って理性ふっ飛ばしたら、私を殺してはくれないだろうか。

こんなところでずっとこうして生きていくなんてごめんだ。
殺してほしい。不要ならとっとと殺してくれればいいのに。

…人の為に。
人の為に生きている人に人を殺させるなんて。
随分と自分の思考は捻くれてねじ曲がってる。
自分勝手で浅ましい。他力本願でくだらなくて馬鹿みたい。

しっかりしなくては。
しっかりしなくては、いけないんだろうか?

だってずっとこんな自由を奪われたまま?
餌を与えられてそれを食らって生き延びるなんて。
理由もわからずにただ泣いて過ごしていくなんて。

ああ、駄目だ。
感情が溢れ出して止まらない。真っ黒になってどろどろ溶け出てくれればいいのに。
誰にも見つからないように固めて小さくして捨てるから。

「リア」
涙で歪む視界の中にリヴァイさんの姿が入ってくる。
ああ、誰にも会いたくなかったのに。
会いに来てくれるのは彼くらいだけど。
彼には会いたくなかったのに。こんな状態では。

いつものように彼は私の背後に回ると随分と数の少なくなった拘束具を外す。
完全に解放された腕と足がぶらりと宙を浮く。動かす気力がない。
大丈夫か、と彼の声が遠くの遠くで聞こえた気がする。頭が痛かった。

「おかあさん、に」
会いたいです、と独り言を呟いた。
反応をして欲しかったからこそ彼がいるからこそ呟いたのかもしれない。
だけどなんて反応されても納得が行かなかっただろうと思う。
ぐるぐるとお腹の辺りで渦を巻く黒いものが気持ち悪い。吐き出せれば良いのに。
お母さん、こういう時はどうすればいいんだろうね。


不意に目が覚めた。
という事は眠っていたらしい。
いつから眠っていたんだろうか。
滲む視界の中でリヴァイさんが近づいてくる。
檻の扉を開けて私の方へと来た。
けれど私は既に拘束具を外されている。
ごちゃごちゃとする頭の中を必死で整理する。
彼が来て、拘束具を外した後、私は眠ってしまい、彼はその間席を外していたんだろうか。
そして彼が再びやってきたところで私の目が覚めたんだろう。多分。

今日は何も話す気になれないのに。
早く帰ってくれればいいのに。来ないでほしい。

近づいてくる彼にちょっとした嫌悪を感じていると腕を掴まれた。

「立て」


prev next