スコーンを、作った。 なんとなく気が向いたので作った。 ちょっと焦げたが問題ない。 第二軍を焼いてる間に戻ってきたリヴァイさんが第一軍に手をつけていた。 失敗してたらどうしよう、何故勝手に食べてしまったの、と慌てる私に彼はなんてことはないようにお前が作ったのか、と。 肯定するとそうかと一言だけ呟いた。 美味しいか不味いか言ってくれてもいいのにと思いつつ私も第一軍に手をつける。 美味しくない、と思った。 不味い訳ではないが何か違う。 なんだろうか、どうしてだろう。 むしゃむしゃと食べていく内に気付く。 母が作ったものは世界一だったと。 また食べたいな、どうやって作ったんだろう、と考えていく内に涙が出た。 食べながら泣く私に少しだけ困ったような彼が側にいた。 そしてどんどん第二軍が焦げていくのだった。 杖が帰ってきて数日。先日のスコーンを食べながら泣きじゃくる事件から数日。 彼が魔法について聞いてきたのでこたえる時間を設けた。 そしてまたいくつか魔法を使って見せた。 それから再び質問を受けて返答。 その後はなんてことはないように普段通り時間を過ごした。 なんとなく、想像とは違っていた。 もっと質問ぜめになると思ったし気味悪がられるかと。 あんまりにもすんなりと時間が過ぎたからちょっと不思議な感じだ。 別に好奇の対象になりたい訳ではない、が興味をもってほしかったんだろうか。 ううん、わからない。 だけど恐ろしいといわれて拘束までされたのに。彼は適当なのか器が大きいのか。 「あの」 掃除をしはじめる彼を手伝おうかと一瞬考えたが邪魔になる気がしてならないから止めた。 彼はとても綺麗好きで、私は未熟者だから。 一段落したらしい彼が私の呼び掛けに振り返る。 なんて言葉が適切かと迷うもののそれよりかは早く言葉を続けなくてはという気持ちが勝る。 「なにか、出来ることはありませんか」 私の言葉に彼は少しばかり考える素振りを見せたが結局私が欲しい返事は得られなかった。 特にない、本でも読んでろ、との事。 本は好きだし学ぶべきことはたくさんあるだろう。 別に文句なんてない、ない、けど。 彼に何かしてあげたいのに。 本は面白い。 自分の世界とは異なる文献に多少の興奮を感じつつ寝る間も惜しんで目を通した。 ベッドの端にどんどんと本が溜まり、山を作っていく。 そんなある日のことだった。 再び、体調を崩してしまった。 私は今彼のベッドを占領している。 彼はというとソファで寝ているようだ。 私のベッドは完全に物置化。半分以上は私が読み漁った本で埋ってる。 最初もこんな感じだったなあ、と思いながら目を伏せる。 すべきことはないしぼんやりとした頭を働かせるのも難しい。 さっさと寝てしまおう。 早く体調を治してベッドを返さなくては。 時間がわからなかった。 ただなんとなく夜中だろうと思った。 自分が情けなく息を荒げてるのに気付いて目が覚めた。 どうしよう、苦しい。 お母さん、と口にしてた。 どうしたの、大丈夫、なんて声をかけてくれる人はいないのに。 甘えさせてくれるあの人は側にいないのに。 母の料理が食べたい。 名前を読んで欲しい。 お話を聞かせて子守唄を歌ってほしい。 心配、してくれてるだろうか。 二度と会えなかったらどうしよう。 泣いてないかなお父さん困らせてないかなあ。 泣きそう、だ。 不意に冷たい手が額に触れてそのままするすると私の髪を撫でた。 この部屋にいて私に近付く人なんて限られているから誰か、なんてわかってる。 けど、お母さんと口が動いた。 涙が止まらなくなって声をあげる。 「いかないで、いっちゃいや」 わあわあと泣きながら腕を伸ばして彼の衣服を掴む。 目の縁を流れ出ていく涙が温くて気持ち悪かった。 相手がどんな表情をしていたからわからないけれど私の手を握り返したのは彼だ。 優しい人の、手だった。 |