07

私の体調は良くなった。
そして改めて彼と話をする時間を何度かとった。
私は今は彼の監視下、にいるらしい。
ただそれは表上はという事で好きにしてくれていいと言ってくれた。
何故こうも私を気遣い助けてくれるのかと聞いたがごまかされてしまった。

そして私は彼にお礼をしたい。何かしたい。
しかし彼に何かしたいという話の前に私に何ができるかだ。
それはもう魔法使いなんだから魔法でぱぱんと役立ってみせて、という思考に至ったが今の私に杖はない。
多分拘束される際に取られたんだろう。
杖がないと何もできない訳で、私個人の力なんてその程度なのかと思い知らされる。
なにか、趣味でもいいから秀でたなにかをつくろう、と思った。

そんな私を知ってか知らずか彼が杖を持ってきた。
やはり拘束の際に取られたそうだが彼の監視下ならばという話で返却してもらったらしい。
杖を手にした時、安心したし嬉しかった。
そしてまた彼にお礼をすべきことが増えたな、と思った。

再び彼と話をする機会を設けた。
そもそもな話、何故私は檻に入れられて拘束されていたのか、という話だ。
それには尤もらしい理由があった。
私は壁の外で倒れているのを見つけられたらしい。
その際に私の記憶にはないが巨人を攻撃したそうだ。
巨人を攻撃した魔法、というのが彼らには理解できず未知のもの、として私は囚われていたらしい。
理解できないものは恐ろしい、というやつだ。私が敵だったらという仮定のもとに怯えていた訳だ。
確かに納得はできた。だけどやっぱりむっとしてしまう。
あんなに長くきつく拘束して寝食をまともにできない程の状態にするなんて、と。

だけど過去の事だ。気にしないでおこう。
彼が助けてくれたのだし。今はもっと先の事に目をやるべきだ。

彼のその話に伴って私がきっと違う世界からきたであろう話を語る。
そして帰りたいから帰る方法を探してもいいだろうかという旨も。
誰かの手を煩わせたりはしないから自分一人でやるから、と。
彼はすんなりと受け入れて勝手にしろ、とのこと。

別にいいんだけど、なんだかもにゃもにゃする何かを感じてもにゃん、とする。
胸の中がもにゃむにゅした何かで満たされてぐにゅぐにゅする感じがした。
言葉にできないこれは一体何だろうかと首を傾げつつ彼に魔法を見せることにした。
魔法を使う事は今だにどきどきするし楽しい。
とりあえず私はこの胸の違和感を取り払いたくて、自慢をしてやりたくて彼に魔法を見せた。

魔法と言っても何でもできる訳ではない。
だけど花を咲かせて実を成らせて、驚かせたり笑わせたりして。
誰かを喜ばせることはできるもの、だと思ってる。

宙に絵を描いて見せて、水を生み出して火を躍らせる。
そんな私の魔法を見て彼はぽつりとすごいなと呟いた。
私の夢や願望ではなくて確かに彼はそう言ってた。
舞い上がる気持ちを抑えようと深呼吸をする。
ありきたりな、言葉だ。単純な台詞じゃないか。
いくら自分に言い聞かせてもあふれ出る感情は止まらなかった。

嬉しい、と。
それだけが胸を満たした。

彼の役に立てたら。
何かしてあげられたら。

緩む頬を隠すように口元へ手を持っていく。
ぎゅっと杖を握りしめて目を伏せる。


私は結局、彼が何をしているか知らない。
調査兵団の兵長さん。しかしその詳細は不明。
どんな仕事をしているのか知らない。
教えてくれないのだから聞いてもきっといい顔はしない。
そう思うと聞けずじまい。そのまま時間だけが過ぎてきた。

私が彼の部屋でまったりしている日中、彼は部屋を空ける事が多かった。
実質、一緒にいるのは朝と夜のみでその時間の半分以上は睡眠という本能に奪われている。
彼が部屋を空けて何をしているのかは知らない。きっと兵長としてのお仕事。
兵長さんなんだからとても忙しいだろう。という私の予想を信じて彼に対してそう言った話題はふらなかった。

今日、帰ってきた彼はなんだか声をかけづらかった。
いつもと明らかに違う雰囲気の彼が上着を脱ぎ捨てる。
何があったのか問うのも躊躇われて私は椅子に座ったままだんまり。
彼もソファに腰かけるとだんまりに入る
時間だけがゆっくりと進む中で不意に彼がぽつりと言った。

居づらいだろうから出てっていい、と。

何があったのか問うのはやっぱり躊躇われて。
かといって彼に対して気の利いた言葉も出ずに黙っていた。
何て言えばいいんだろう。
彼の半分の時間も生きてないような私が。
何を言えるだろうか。

いさせてください、と情けなく言う私に彼は何も言わなかった。
私も何も言わなかった。
再び時間だけがゆっくりと進んでいく。
ちらりと視線をソファへとやれば彼は項垂れていた。
表情はわからなかったけれど泣いているのではないかとそう思った。
何となく気まずくて、申し訳なくて、盗み見るような行動に罪悪感を感じつつ視線をずらす。
なんだか、とても泣きたくなった。

泣きたい、と意識してしまうともう止まらなかった。
必死に目元を抑えるも流れでてくる涙が止まらない。
静かに声をあげないように音を出さないように何でもないように涙を拭う。
その内に鼻をすすってしまうのだけれどごまかすために咳払いした。
風邪か、と小さく言った彼の言葉には何も言えなかった。


いつのまにか、寝ていた。
情けないやらなんやらですぐに起き上がるきにはなれなかった。
椅子で眠ったせいで体がだるいのもある。

背中にかけられた布団は、暖かかった。



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