ハンジさんが好きでたまらない

「ハンジさん、ハンジさん、大好きです!」
私の後ろをちょこちょことついてくる彼女は私に懐いている。
いつ懐かれたのか。どこに懐かれたのか。わからない。
だけど馬鹿みたいに私に好きだ好きだと彼女は繰り返した。

私が椅子に座ると彼女は向かいの席に腰を下ろした。
何をするんですか、お話しましょう、ちゅーしてください、と繰り返す彼女も私が資料を取り出すと黙った。
黙々と資料に目を通していると先程まで騒がしかった彼女は静かに大人しく、それでいて不満げに私を見ている。
邪魔をしないように、という気遣う心があるものの本当は構ってほしくてたまらないんだろう。
しょうがないなぁ、といって構ってやる程私は彼女に心惹かれてはいないし優しくもない。
彼女よりは目の前の資料の方が興味あるというのが事実だ。

けれど、息抜きにと席を立ち彼女と私の分との珈琲を入れてきた。
彼女に差し出すと嬉しそうに受け取ってふぅふぅと冷ますために息をかけている。
一口だけ飲むとちょっと眉を寄せて苦いです、とぼやいていた。知るか。
棚にお菓子があるから取っておいでと伝えると嬉々として取りに行く。
私がその間に再び資料を手にして帰ってきた彼女が大人しくお菓子に食らいつくのを確認してからぱらぱらと頁をめくった。

「ハンジさん、ハンジさん、これ美味しいですよ」
不意に彼女がそう言ったけれど少し、邪魔だ、とそう思った。
邪魔しないようにと黙っていた彼女は一体どこへ。
大人しくさせる為に菓子をくれてやったのだけれどそれを話題に引き出されるとは。

「ねぇ、ユリア」
私が不意に顔をあげると彼女はずい、と菓子を差し出していた。
仕方なく食べてやるとユリアが表情を明るくする。
美味しいでしょ、と満足そうに言っているがもとは誰のものだと思ってるんだろう。

「美味しいもの食べるの、幸せですよね」
ああ、どうして彼女は、

しばらくして椅子に座ったまま眠ってしまったユリアを部下に運ばせた。
あんなに輝かしく見えていた資料が色を失う。
ぼんやりとして集中が出来ない。胸の辺りがもやもやとした。

私は君に好かれるような人間じゃないんだよ。
そんな大層な人間じゃないよ。
ため息をついて体を伸ばす。とんとん、と頭を叩いた。

「うーん、ね、きっとあの子もいつか目が覚めるよ。近い内にでもさ」


眠り姫は最初から眠ってなんかいなかったそうだ

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