好きになりたかったアニ

「アニさん、よろしくお願いしますね!」
私の隣のベッドになったユリアは良い子だった。

残念ながら他人と深く関わり合う気もないから必要以上に仲良くなる気はなかった。
それでも見ていてクリスタは良い子でサシャは馬鹿だと感じるものは感じる。
人間で、あるのだから。

「アニさん、アニさん、聞いてください!今日の巨人のお話なんですけどね、」
私がそっけない態度を取っているというのに彼女は近付いてきた。
へらへらと笑って傍に寄ってきた。
今だって訳のわからない馬鹿みたいな推論を語ってる。

「アニさん、好きです。お話聞いてくれます。優しいです」
聞き流してんだよ。
そう思いながらも口にはしなかった。当たり障りないお礼を一度だけ伝えた。

彼女はどうして頑張れるんだろう。
体調を崩したらしい彼女は訓練を終えて倒れるように眠った。
休ませてくれ、なんてものは存在しないから訓練するしかない。
だけど、具合悪い癖に馬鹿みたいに真面目にやって。
死んでしまうんじゃないだろうか。

そんな風に考えながら眠る彼女の細い腕を握った。
私よりも白くて細い。
整った容姿っていうのは彼女のような容貌を言うんだろう。

「…どうしたんですかアニさん。人の腕を掴んでじっと見つめて」
いつの間にか起きたらしい彼女がくすくすと笑っていた。
ぱっと腕を離す。見られていた。寝てるとばかり思ってたのに。

「ユリア、」
言葉は続かない。続けない。
考えてもいない。
なんで口を開いたのかもわからなくなった。
無駄に彼女の名前を呼んだだけだ。

(話がしたい)

「お話しましょう」
ゆっくりと起き上った彼女が寝台の上に座り込む。
私と向きなおる形で布団を頭からかぶる。

「駄目ですよ、アニさん。付き合ってくださいね。アニさんに起されたんですもん」
別に受け入れたって良かったのだけれど。
拒否の言葉を口にしかけると彼女はわぁ、と声をあげて布団と共に私へと倒れこんできた。
そしてそのまま私の上でわぁわぁと声をあげながらくすぐってくる。
馬鹿げてる、と思うと自然と口元が緩んだ。

「大切な人がいるんです」
聞かなければ良かった。
馬鹿げた質問をした。くだらない事を聞いた。

彼女になぜそんなに頑張れるかと聞いた結果がこれだ。
彼女はずっと遠くを見るように視線をどける。
風が吹いて彼女の長い色素の薄いやわらかな髪がまう。

「彼の力になりたいんです。だから頑張らなくちゃいけないんです。認めてほしいし評価してほしい。褒めて、ほしいんです」
よく頑張ったね、偉いね、すごいね、なんて賞賛の言葉は彼女なら腐るほど浴びてきたのに。
その誰か、愛する大切な誰かから言葉を、その人の言葉だけを望んでるんだろう。

私と彼女が同じ部屋で語った時間、同じ食事を取って訓練してきた時間はたった数年だ。
彼女の十数年の中の人生の、これからも何十年と続くであろう人生のたった数年。
数年だけ、だ。

「私は調査兵団に入ります。場所は違えど志は同じでしょう。お互いに頑張りましょうね」
私の手を取る彼女を殴り倒してやりたくなった。
理由はわからない。特にないかもしれない。
殺してやりたいと思った。死んでしまえばいいと。

嫌いじゃない。憎んでなんてない。

だけど死ねばいいと。殺してやろうかと。
私から、
(離れるくらいなら)

「また会いましょうね!一緒にご飯を食べて語り合い眠った仲です!そう簡単に切れる縁ではありませんし切らせません!切れたら結びに行きます!」
ね、と彼女が笑みを浮かべて同意を求める。
アニさんと私を呼ぶ。
鈴が鳴るような、小鳥の歌う声。

「…また、会いましょうね」
するりと小さな手が離れる。
そうだね、会えたらいいね、そう伝えると彼女は嬉しそうに笑った。
約束ですよ、美味しいもの食べに行きましょうね、なんて言ってる。

会えたらいいというのはきっと本音。


それがどんな形でもいいから、


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