ミカサに死んでほしくない
「マニキュアを、塗ろう」
なんだこいつという目で見られても私は挫けない。
半ば無理やりミカサの白い手を取って整った形の爪を赤く塗る。
赤いマフラーが似合うと思っていたから赤色のマニキュアにした。
塗り始めると大人しくなったミカサがため息をついた。
「爪に色を塗って、何になるの?」
思わず手を止めて彼女を見やる。
黒い髪に黒い瞳と、桃色の唇。長いまつげが瞬きする度になだらかな頬に影を落とす。
なんて美人だ。羨ましい。いや、しかし、彼女だからこそ美しいのだ。
私が彼女になるとなっても遠慮する。激しく遠慮させてもらう。
「いいじゃない。似合うよミカサ」
再び手の動きを再開させる。
中指の爪からはみ出て指についたから拭う。
人差し指は上手く行ったのに。
「そうじゃなくて。何になるのかって聞いてるの」
割と彼女はしつこい。
いや、間が持たないから話題を提供してるだけか。
「可愛いから」
「これ可愛い?」
可愛いよ、とても。
そう言いながら細い薬指に触れる。
塗り終えたのが早く乾かないかな。待ち遠しいな。
「綺麗に、なったらさ」
ミカサが大人しく私の言葉に耳を傾けていることを確認する。
静かに彼女の爪に赤い色を乗せながら口を開く。
「色んな人に見てほしいわ。見せびらかしたくなる。どう、可愛いでしょ、って」
「ほら、だからさ、こんなに可愛くなったんだから明日明後日じゃ死ねないじゃない」
くだらない持論だとはわかってる。
だけど、死なないでくれと赤い爪の彼女の手を握り締めた。
さて、もう片方をとまだ一つもマニキュアを塗ってないミカサの手を取る。
不意に彼女が何かいいかけたが何も言わずに再び口をつぐんでしまった。
大した用ではなかったのだろうと私も黙ったまま彼女の爪を赤くした。
「その持論なら」
「貴方の爪を塗って髪を結えば良かったのに」
「髪飾りも小瓶も私が用意したのに」
「きっと似合ったのに」
もう遅いね
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