サシャと仲良くしたい

「あいつって馬鹿だよなー」
「そ、そんな事ないよ。ちょっと思考回路が常人とは違うだけだよ」
「アルミン、それはひどい」
「え!い、いや、別にそういう意味じゃなくてね、ただちょっと考えが理解できないっていうか、」
「それはひどい」
「だから違うってば!」

少し離れたところでの会話の筈なのにやけに耳についた。
多分それは彼らがあまりにも騒がしいから。

…私は彼らのように騒ぐ訳ではないけれど確かに、と心の中で同意した。
彼らの話題にあがっていたサシャ…彼女の言動行動を見ていて首を傾げたくなることが多々ある。
大人しくしていればいいのに。静かにしていれば。もっと上手くやれば。
それが出来ない彼女を馬鹿と形容するのはしっくりきた。

と言っても私にとって彼女はどうでもいい人間なのだけれど。
彼女がどうなろうと知ったことではない…が。
彼女は総合的に見て評価が高い。何を評価されているのかいまいちわからないけど。
それはなんだか少し、気に食わない気がした。

(私の、どこがあれに劣るって言うの)

訓練中に、ちょっとしたへまをした。
教官は少しばかり呆れた様子だったがそれだけだった。
皆と同じく訓練を終えたが、多少の体のだるさを感じてすぐに部屋に戻って寝た。
食事をしないまま。

だから目が覚めた後に酷い空腹を感じたのだ。
明日も同じように訓練があるのに。食事を抜くなんて。
自分の行動に呆れながらも夜もふけた今は寝るしか選択肢がない。
ぐっと腹部を圧迫するように押さえつけて布団を被る。
大丈夫、朝はちゃんと食べるから。頑張れ私の胃袋、そして消化器官よ。

「ユリア、ユリア」
小さな声で私を呼ぶのは半日頭を占めていた彼女だった。
私がそっと視線をやると彼女はへらりと笑う。
何だぶさいくめ。私の睡眠を邪魔しないでほしい。
そんな悪態を心の中でつきながらゆっくりと体を起こす。
なに、と小さく出た声は思ったよりも不機嫌そうだった。

「ご飯、食べてないでしょう。そんなんじゃ明日持ちませんよ」
これをあげますと彼女が差し出したのは変わり映えしないパンだ。
空腹というものは人を本能的にさせると思う。
本当にいいの、と確認の言葉を口にしつつも手は既にパンへと伸びている。
彼女はもちろん、と言いながら笑みを浮かべるもすぐに眉を寄せた。
そしてちょっと躊躇ってからパンを半分に千切る。
どうやら私に全部あげるのは惜しいらしい。
半分と言っても綺麗に二等分という訳にはいかず、迷ってから渋々ちょっと大きい方を私に差し出した。

パンを口にして幾分か空腹が和らいだ。
隣を見れば嬉々としてパンを食らう馬鹿の姿。

「食べるのが好きなのね」
呆れに似た何かを感じながらそう彼女に言った。
嫌味っぽく聞こえただろうかと後で思ったが別に構わないかと思いなおした。
初日から教官の前で芋を食べるような女だもの。馬鹿。

「お腹が空いているから食べたいって言うのは変ですか?」
きょとん、とした彼女が。
不思議そうに、当然みたいにそういうから。

「そうじゃ、」なくて。
言葉が続かなかった。
私は彼女が嬉々として隣でパンを食らうのが気に食わなかった。それは私が腹を減らしているからだ。
だから、結局私は自分が腹が減ってるから食べたいという欲求のもとでこいつにむっとしていた訳だ。
そして彼女は腹が減ってるから自分の手に入れた食糧を食らってるだけ、それだけ。ああ、ますます腹が立つ。そして減る。
私が散々馬鹿だなんだと見下してた女はまともだった訳だ

どんな時だって彼女は素直に正直に行動している訳だ。
これが正しいと信じて。私が理解できてないだけで。

なおかつ仕方ないと感じつつも他人に施すだけの余裕があるときた。
こっちは馬鹿みたいに寝てご飯食べれなかったとすねたあげく腹が減って八つ当たり、で終わり。

馬鹿はどっちだ。

「でも、あれですよねぇ」
なんだよもうほっとけよ。
馬鹿は私だ。最悪だ。寝かせてくれ。
後、ちょっと食べたら余計に腹が減ったじゃないか。
どうしてくれる。もう半分取りやがって。そもそもそのパンは私のだったのでは?

「誰かと食べると、美味しいですよねぇ」

ああ、くそう。
可愛いなんて思ってない。

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