ハンジさんと優しい人の話

※大人組

優しい人、だった。

ユリアは優しいよね、と言うと困ったように笑う。
そしてそんなことないよ、とそう言ってた。
まぁまぁそうでしょう優しいでしょうなんて高慢な物言いをする人ではないことは百も承知。

だから人に慕われてて愛されてて私も彼女が好きだったんだろうと思う。
彼女は私の考えの批判を決してしなかった。とは言え私と全く同じ意見だった訳もないだろう。
今となっては彼女が何を考えて私と一緒にいてくれたのか絶対にわかりはしないけれど。

「(大好きだったなぁ)」

随分と長い間一緒だった。
今思い出すと何だか照れくさいが訓練兵の時に彼女を助けたところから一緒だった。
彼女の愛らしい容姿に惹かれた野蛮な連中に囲まれていたところを虫の居所が悪い、と私が…
その連中はあの短い三年間の訓練の中で十数年しか生きていない人生に終わりを告げてしまったのだけれど。

「毎晩毎晩夢に出てくるの」
いつだか彼女とそんな話をした。
俯いた彼女がぽつりぽつりと語りだす。

「あの時ああしていれば、なんて後悔は意味ないってわかってるのに夢の中でぶつぶつ恨み事を言われる。分隊長、貴方がこの時こうしてくれていたのなら、どうして見捨てたのか、よく今も何事もなかったかのように笑って生きていけるね、って」
だからきっと私は殺されるんだろうね、と顔をあげた彼女は笑ってた。

それから少しして彼女は死んでしまった。
あの細い腰にはきちんと内臓がつまっていたらしい。
ピンク色の美しいした健康そうなそれが。ぶちまけられて踏みつぶされて食べられたやつはろくに消化もされず吐き出されるんだろう。

もう二度とあの赤い唇は私を呼んではくれないし笑ってくれることもない。

ねぇ、今度不安になったら私は誰に抱きしめてもらえばいいの?
(ああ、きっと私はまたあの弱い人に背負われてしまう)

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