ベルトルトに舐められる

昔の私は一体どんなだっただろう。

決して今の私と同じではなかった。
こんな思考ではなかったはずだ。
いつ、どこで、どうして変わったのかは特に問題じゃない。
と、思う。

志高く調査兵団に入った。
あれから数年、何度も目の前で仲間が死んだ。
悲鳴を上げて泣き叫んでぶちりぶちりと食いちぎられる姿。
恐怖して怯えて悲しんで恨んで憎んで、その上で羨んだ。

巨人の口の中ってどんな感じだろうか。
どんな気分になるんだろうか。
腕を、足を、食いちぎられるのってどんな感触だろう。
体内はどうなってるんだろう。喉とか、腹部とか。
消化器官や排泄器官がないのって本当なのかな。
歯や、舌は、何でできているんだろう。

死にたくは、ない。
だけど食べられるのってどんな気分だろう。
食べられてみたい、と思う。

危険な思考だというのはわかっている。
生きて人類の為に尽力を、という周りにこんなことは言えない。
誰にも言えない。言うつもりもない。
一生、死ぬまで、それこそ巨人に食われるその時まで、自分の心に秘めておく。

刹那、濡れた生温かい感覚に包まれる。
ぬるついた液体で手が滑った。
固い何かに指先が当たる。その何かに挟まれる。
ぎり、と切り離すように固い何かが指を挟んでた。

ぼんやりと、これは口の中じゃないかと感じた。
あの、夢にまで見た、食べられる感覚なのではないかと。

ふと目が覚めてそれはやっぱり夢であるという事がわかった。
目の前でかがんで私を覗き込んでいるのは後輩のベルトルト、だった筈だ。
なんとなくばつが悪くて視線を逸らした。
先輩がこんな夢を見ているとは思わないだろう。私だって夢だとは思わなかった。

「…こんにちはベルトルト。どうかしたの」
「いいえ。起こしてしまいましたか。すみません」
「構わないわ。ねぇ、私どれくらい寝てたかしら」
「そんなに時間経ってませんよ。気持ち良さそうに寝てましたね」
「…ねぇ、まさかとは思うけれど、ずっと見てた訳じゃないよね?」
「ごめんなさい。随分と気持ち良さそうに寝てたから」
「次という機会はないと思うけれど、こういう場面に立ち会ったら起こしなさい」
「はい、そうします」

寝顔を見られてた。
そう思うとじっとしていられなくて立ちあがう。
無意味に髪をかきあげて腕を組み歩き始める。

自分の手が、濡れてた気がした。

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