夜中に目が覚めた。
嫌な夢を見た気がするが思い出すのも嫌だから考えないことにした。
それでもモヤモヤとした胸のうちのなにかは消えず吐き気が、した。
起き上がって部屋を出てひんやりとしたろうかをずんずんと歩いた。
木も空も雲も石さえも眠ってるような気がした夜。
世界は私一人を残してみんな死んだような、そんな感じ。
みんな死んだって良いけれど彼には生きてもらわなくては困るのだ。

「死ね」
誰も彼もが死んでしまうなんてありえない。
そもそもそんなのはいや。
お姉様もお兄様も妹たちや私の可愛い従者も死んでしまうなんて、いや。
だから私だけひっそりと誰にも気づかれず死ねたらいいのに。

「死んで」
そのときに彼が一緒だったらなにもいうことないのに。
死ねと繰り返す私の声は情けない気がした。

「…死んでよう」
彼の上に覆い被さるとまだ心臓は動いていてひどく泣きたくなった。
彼はなにも言わず私を抱き締めて頭を優しく撫でた。
その手が温かくて温かくて、泣きそうになった。

彼以外みんな死ねば良いのに。
そうではないと私は幸せになれないから。

その日は彼の上に覆いかぶさって静かに眠った。
重かっただろうに彼は私を降ろすこともなく抱きしめて、眠ってくれた。

「(この人が、)」
とてもとても愛しいから。
この人が生きてる間は死ぬのが惜しいから。

だから死んでしまえばいいのに。
そしたらいつまでも私達は一緒にいられる気がした。