目が覚めて隣で眠る紅覇の姿に一瞬頭が真っ白になった。
血の気が失せてひどく冷たくなる手足を感じていたが布団から飛び出す。
自分の乱れた着物と寒そうに布団の中でもぞつく紅覇から見られる白い肌に背筋が震えた。

何てことをしてしまったんだろうか。

着物の乱れを直して恐る恐る紅覇に近づき声をかけた。
寝惚けた様子の彼は何度か瞬きしてから私の名前を呼んで目を覚ました。

「誰にも言わないでね」
私の言葉を聞いてキョトンとした顔をした彼は突然笑いだした。
そしてひとしきり笑った後にしくしくと泣き出してしまった。

彼が何を考えているか全くわからずにいると泣きながら謝られた。
それから好きだと言われたのだけど私はただ大きな桃色の瞳からこぼれ落ち続ける滴を見つめてた。

「きらわないで、ね、あねうえ、おねがい、すき、すきなの」

この子は私の弟で、お姉様の弟で、お兄様の弟で、父上の息子だ。

こぼれ落ちる滴を見てずっとそんなことを考えていた。

怪我をして泣きじゃくっていたあの子供は私の弟だった。
抱き締めた小さな体は思ったより情けなくて愛しかった。

愛してるという言葉はなんて重いのだろうか。重くて重くて、動けなくなってしまいそう。
少なくとも私はその人を押し潰す言葉の縛り付けから逃れる術を知らない。

「愛してる、よ」
(縛り付けたのは誰だろう)

「僕もだよ、」