庭で小鳥が死んでいて
可哀想だから埋めて墓を作ってやろうと思ったら
女官や従者が口々に言う。

(ああ、なんとお優しい姫君!)

私はその言葉を聞き流していたけれど
それは違うとずっと心の内で否定をしていた。

何故かは忘れた。

「言えない話ならいいわ。ごめんなさいね、」
「何をいってるんですか?」
言葉を遮られ微笑んだままの彼女の言葉に首を傾げる。
白瑛の言葉を確かに聞いているのに思考は遠い日を思い出している。

その日は何となく嫌な感じがした。
庭で鳥が死んでいて可哀想です、お母様、と言うのは最愛の息子だった。
元気に育ったのはいいが父親に似たのかおっとりとしていてお人好しだ。
この間も捨て猫にご飯をやっていたと女官から聞いた。
皇子だと言うのに女々しくはないかと王に言えばきっと心清らかなのは君に似たのだろうとそんなことを言われた。

「葬儀を終えてすぐ貴方とこうして二人でお話をしているでしょう?白龍のところには行ってません。わかりませんか?」
彼女が言うことに間違いはないけれど。
だからこそおかしいのだ。

あの日、遠い昔、庭で小鳥が死んでいて、

「…白龍が待っているのではなくて?」
「そうですね、貴方と会いたがっているかもしれませんね。あの日みたいに」
「貴方に、話があるといってたわ…」
雨はいつまで降るんだろうか。

ああ、でも、あれは、本当に、死んでいたんだろうか

「あの子が一番可哀想だと思うの。馬鹿で愚かだと。結局、綺麗事を信じてその分傷付いてるんだもの。おかしいわ」
「白瑛、冷えるわ。部屋に戻りましょう」
「兄上は、母上に殺されたのよ。貴方の好きな私の兄上は血の繋がった実の母親に」
「白瑛、やめて。そんな縁起でもないことを」
「私は貴方が好きだった。色々な話をしてくれたわ。ずっと会いに来てくれたのよね」
ぺたりとくっついてきた彼女は冷たい。
随分と生々しい感触がする。
ああ、ずっと外にいたからだと頭はひどく冷静だった。

殺されていたのではないとどうして言い切れるんだろうか

「子はすくすくと大きくなっているそうね。男の子で、元気だと。そちらの陛下はお優しくて、貴方を慈しんでくださると」
今さっき私が話した内容を反復する彼女の声は耳から通り抜けていく。

あの鳥は確かに殺されていたのだ。
そうじゃなくて、私が殺した。

「ねぇ、私は貴方が誰よりも好きだったの。兄上に渡すつもりもなかったのよ。あの人は死んだけど。殺されたけどね。本当に私は貴方が好きなの。結ばれないってわかってて幸せになれないってわかってたけど。貴方が嫁ぐって言うから白龍が貴方にしたことにも目をつぶったのよ。嫁いだ先で貴方が幸せになれないってわかってたから。私と貴方で幸せになれないんだから貴方と他の誰かがだなんてありえないわ」

死んだはずの鳥はまだ生きていて。
どうすればいいかわからなかった私は、殺したのだ。
そして埋めて墓を作った、はず、

「こんなせかいでしあわせになれるはずないでしょう?」

こまどりをころしたのはだれかしら
(きっとくるったあのひとのしわざさ!)