私のことを野蛮だとかはしたないだとか陰で言ってた連中がそろいもそろって気持ちの悪い笑顔で恭しく接してくる。

「何かございましたら、何でもお伝えくださいね」

私の立ち位置は第二皇女だそうだが、第一皇女などとは名ばかりの白瑛よりかは現皇帝の実子である私に媚を売っていたほうが連中にとって都合がいいんだろう。
私に気に入られれば出世できるんだろうか。後ろ盾が得られるんだろうか。今の私にはそんな力があるらしい。ついこの間までなかった、そんな馬鹿げた力が。

「今、貴方が全裸になって街中を練り歩くなんて、とてもいい暇つぶしになりそうだとは思わない?」
誰かの笑顔がぐしゃりと歪むのを見るととても愉快だった。

白瑛と、会った。
彼女は膝をついて恭しく頭を下げる。
いつもと正反対の立ち位置だ。あの皇女様が、白瑛様が、私に、私なんかに頭を下げている。

「面を上げろ」
ぴくりと、彼女が動く。
私の声が小さかったのか、彼女のためらいが大きかったのだろうか。
彼女は頭を下げたままだった。再び顔を上げるよう声を出す。

「面を上げろ、白瑛」
恐る恐る、といった様子で彼女が顔を上げる。
白い肌に丸い灰色の瞳。口元にある黒子。
頭の中がぐらつく。沸騰しているのかもしれない。冷ます手立ては知らない。

「死ね」
周囲にいた人のざわめきは聞こえた。
私の傍にいる従者が私の名を呼ぶのも聞こえた。
ただ、白瑛だけが何も言わず声もあげずに真っ直ぐと私を見つめている。

「お前が死ねば良かったのに」
戸惑いを多分に含んで私の名前を呼ぶ従者の小さな声に被ってきたのは白瑛の従者の声だった。
背の低い、まだ幼さの残る彼は私の名を呼ぶと憎々しげに見つめてきた。

「お言葉が過ぎるようですが」
白瑛の制する声を振り切って彼がそう言った。第二皇女に対する精一杯の言葉だったんだろう。
笑い声が口から出ていく。胸が痛む理由はよくわからない。

「だから、何だと言うの?」
彼の丸い瞳が見開かれる。
私の従者の戻りましょう、という震えた声に引っ張られて歩きだすまで胸の痛みは傷ついた。

彼女が悪ふざけはやめてくれ、と言う。
生意気だ、口答えするな、黙ってろと言うと彼女は黙りこんで泣き始めた。
言い方がきつかっただろうかなどと心配していると彼女は嗚咽を漏らしながら言う。

「貴方が泣かないから、私が泣くんです。お願いだから、もう誰かを傷つけたりしないで。その分貴方が傷ついてるんだから」
彼女の中で私は相当美化されているらしく、何をほざいているのかとせせら笑う。

「私は生きている価値のない人間だから、必要のない人間だから、彼の代わりに私が死ねたらどれだけ良かっただろう。この世の毒である私を誰か殺しにきてくれればいいのに」
口をついて出る言葉は驚くことにそんなものばかりで、いつの間にか零れ落ち始めた涙を拭う彼女の手は暖かくて優しくて再び死にたくなった。
誰かが私を殺してくれるというのなら。殺しに来てくれるのならば、喜んで殺されよう。だから、ほら、さぁ、早く!