母はご立派な血筋の生まれでそれに恥じぬよう生きてきた。 末の妹と、私とそう年の変わらない女の子の彼女と関わると周りが顔をしかめたから。 彼女と口を利かなくなった。 大声で笑ったり好きなお菓子に飛びついたりするといい顔をされなかったから止めた。 似合わない服に袖を通して重たい馬鹿げた髪飾りをつけて無駄口も叩かずにゆっくりと歩くようになった。 兄に話しかけると彼らは答えてくれたが後で周りの人が声を低くしてこんなことはやめなさいと言ってきた。 それから兄の顔をまともに見たことすらなくなり姉や妹が今どこかという話を噂程度に聞くようになった。 時々私は何をしてるんだろうかと思わないわけでもなかったが周りがそういうのだから正しいんだろう、と根拠もなく信じて自分で考えるのを止めた。 この国が今世界でどういう立ち位置でこれからどうなっていくのかということはもう私には関係ないんだろう。 ある日私の結婚が決まった。 初めて聞く名前の全く知らない男と結婚する。 結婚してこの国がどういう利益を得るのかはやっぱり私に関係ないことらしい。 側近の、比較的私と親しくしてくれる若い男がつとめて明るく言う。 姫様のご結婚のお祝いにお兄様から声がかかるとかなんとか。 もう既に顔かたちすらうっすらぼんやりの、お父様にお会いする時に視界に入るか入らないであろうかの男が一体私に何を言うんだ。 大しておめでたくもなければくだらなくて面倒なだけだというのに。私がこんなんなのだからお兄様もそうに決まっているのだ。 何故か気張った格好をさせられ粗相のないようにと言いつけられ重たい体で廊下を進んだ。 兄に、会える。 兄もこれまたきちんとした格好をしていて、私と向き合い、改まった様子だった。 こうして真正面から向かい合い顔を見るなんていつ以来だろうか。 それこそ確かに時間は経っているのだが、兄は随分と大人びていた。 なんとなく気後れしつつ決まり切った挨拶の言葉をお互いに終え、次は何を言われるのだろうかと彼を見つめるだけになった。 「シャハラ」 その後彼はどこかで作られたような定型文みたいなお祝いの言葉をつらつらと述べた。 要するに結婚おめでとうってことらしいが、その前にお兄様、紅炎様、 それ私の名前じゃないよ |