例えば書物に出てくる息を飲むような美男とはどういった男だろうか。
そして書物の中の地位のある美男に見染められて幸せになる女の話に憧れるのはよくある話だと思うのだがどうだろうか。

そう言った訳で私が彼に憧れるのに長い時間は必要としなかった。
数える程しかまともに話したこともなく何が好きで嫌いかなどといったことも知らないまま私は彼に憧れた。
美しく輝いて見える彼にそれこそ馬鹿みたいに勝手に憧れていた。
白瑛様の口から出てくる彼の名前に反応してしまうくらいには。

それから少しして白瑛様の誕生日があった。
うちからも大量に何が何だかわからないもを贈った。
私個人からと個人的に渡したのは濃い緋色首飾りだ。きっと似合うと思って。
おめでたいその日も過ぎて落ち着いてきた頃の帰り道だった。
いつの日かを彷彿とさせるように私を呼ぶ声が聞こえたのは。

その日、私は彼から、馬鹿みたいに憧れていた彼から、髪飾りをもらった訳だ。
どうしてかという理由も彼は語っていてくれた気もするが嬉しくて嬉しくて頭からぶっ飛んでしまった。
ただ、似合うと思って選んだと彼が言ったことは忘れないでおこうと思った。
帰り道、何度も何度も頭の中で反響させた。ぎゅっとその髪飾りを握りしめて。

次、会う時に、お礼を言おう。
この髪飾りをつけて頭を下げに行こう。
お礼に何か差し上げよう。何が良いだろう。
男の人は何を贈られたら嬉しいのだろうか。
兄達は相談に乗ってくれるだろうか。

私のこの浮かれた思考は全て無価値だった訳だが。

私が再び彼と会う事はなく、彼は死んだ。
皇帝が死に、新しい皇帝に父上がなった。
私は皇女になった。兄達は皇子へと。
全部夢の中の話だと笑ってから泣いた。

彼の事をもっと知りたかった。色々な話をしたかった。
何が好きで嫌いで趣味はなんなのか。今興味のあることはどういうことか。
否、長い話なんてしなくていい。できなくてもよかった。
だから、せめて彼にお礼を言えたらと髪飾りを投げた。

悲しんでるのか怒ってるのかわからなくてわからなくてその日は寝た。
夢の中で炎に包まれて死ぬ私の姿があった。
不細工面で泣いていたのでさっさと死んでしまえばいいと笑った。

私が皇女になったことはどうやら現実らしい。
どんな話よりもたちが悪い。