少しだけ昔の事を。

私には一人血の繋がった姉がいる。
とは言っても腹違いの姉で、年もそう変わらない。
私は、彼女が大好きだ。とても大切だ。

そんな姉は私より少し早く婚約の話が舞い込み、遠い遠い異国へと嫁いでいった。
離れたくない、寂しい、と小さく小さく言ったのを私は知ってる。
嫁ぎ先から手紙が何度も来た。思っていたよりも明るく幸せそうな日常の話が綴られていた。
もしかしたら私に心配をかけまいとした嘘だったかもしれないし運がよくて本当に本当の事だったかもしれない。
とにかく私はその手紙を読んで自分にもきた婚約の話を前向きに考えた訳だ。

既に愛する人が祖国にいて、それが血の繋がった兄であるということを忘れる為にも。

嫁いでからひどくがっかりした。相手の男は若く優しく整った容貌ではあったが。
私の顔色を伺い、煌の動向ばかりを気にして、欠点などいくらでもあげられる。嫌いだったんだから。
それでも仕方ない。こういう運命なのだろう。そう思って毎日を過ごしていた。
姉からの手紙は相変わらず幸せそうで安心した。嬉しかった。

好きでもない男と夜を共にするのは苦痛だった。どうしてかわからないが昼間泣くことも多くなった。
自分はこんなに弱かったのだろうかと情けなくなった。祖国から連れた従者がひどく心配する。
昔のように彼に当たり散らす事が多くなった。外面だけは良くして、だ。最低だというのはわかっていた。
姉からの手紙は相変わらず幸せそうだった。

私は子ができない体だとわかった。好きでもない男の子を産まずに済むのだとちょっと安心した。
それから少しして側室の子を私の養子として育てることになる。笑って私を母と慕う子供が気味悪かった。
姉への手紙の返事はいい事ばかりを書いた。子供ができた。夫もいい人だ。この国も悪くないといったことを。
姉からの手紙は相変わらず幸せそうだった。羨ましい、と思った。

それが糸だったと思う。ぶつりと切れる。
姉を、愛する姉を、誰よりも大切なはずの姉が幸せなのを羨ましいと。
心から喜べなくなった。どうして私は、と妬ましく思えた。

糸が切れると道は開けてとても身軽に感じた。
財政を悪化させるのは私の顔色を伺う男であったから簡単だった。
それから国がどんどんとおちていく迄大した時間もかからなかった。
父に呼び戻されるとは思ってはいなかったが好都合だったので国に戻った。
私は煌に帰った。愛する人のいる祖国に。

「貴方が私を必要としなくなったら私も貴方なんて必要なくなるので殺します殺します。私を必要としない貴方なんて生きている意味ないですから。大丈夫です私もすぐに後を追います。貴方がいない世界なんて生きていく価値ないですから」
何も言わずに私を抱きしめる彼に胸の中が温かいもので満たされる。
私は幸せだと確かに感じられた。

「私と貴方以外みんな死ねばいいのに」
この世界に二人きりだけになれたら