あの日から随分と大人しくなった彼女は文学を嗜んでは裁縫やら花やらと言ったことにも手を出している。
元々器用な彼女は何でもできる訳でそれなりに楽しみながら毎日を過ごしている。と思う。

しかしそんな事は全くなかった訳だ。

事の発端は昼間何か変な気配を感じてそれを追うと、シャハラの姉がいた訳だ。
腹違いの半分血の繋がった姉、だ。彼女は俺に見つかると顔を真っ赤にして無礼者、と叫んで立ち去ってしまった。
そんなよくわからない事があったと知ったシャハラもよくわからない行動だと不思議そうしていた。

それから少しして彼女の真意がわかることになる。
彼女が時間があるならお茶でもしないか、とシャハラに声をかけてきたからだ。つまりは自分の妹と仲良くしたい、と思ったんだろう。
一体どうして突然と思わない訳でもなかったが、喜ばしくも感じた。これで姉と仲良くなれば彼女の楽しいことも増えるのではと。
だが彼女は断った。あろうことか俺を理由にだ。これからこいつに勉強を教えるから今日は無理だ、と。そんな約束はなかったし何故そんなくだらない嘘を理由に断る必要があるのか。
主人の行動を何一つ理解できずにいたが困ったように眉尻を下げ安心したような残念そうな顔をするシャハラを見て仮説を立てる。

照れて、いるのでは?

どうやら正解だったらしく何度か姉の誘いを断っていた彼女は不意に次はお姉様と一緒に、と俺に呟いていた。
そんな過程を経て彼女達は時間を共にすることを増やし、仲良くしていった訳だシャハラが前よりも頻繁に笑っては今日はこんなことがあったと話す姿は本当に嬉しそうだった。
そして花よりも書物よりも何よりもずっとずっと楽しそうに過ごす姿を見て胸につっかえていたものが取れたように安心できた。

それから少ししてシャハラの母親が死んだ。
元々病弱だったから、と彼女は泣いた。あんなに嫌いだったのに、変なの、と言いながら。

「ごめんなさい、って謝られたの。泣いてたわ。だから、私、貴方の娘で良かった、って。少しもそんなこと思った事ないのに。本当に変だわ」
泣きやんだ彼女は小さな手で俺の手を掴む。
それから優しく微笑んで言う訳だ。

「跡、のこっちゃったね」

それが彼女の歪んだ理由
(ゆびさきにあかいせん)