ある日シャハラが女達に囲まれて水をぶっかけられていた。
間に入り咎めるとすぐさま他の女は立ち去った。
彼女はというと泣いてるかと思えば泣いてはおらず。
泣きそうな顔をしていた。
ここで啖呵をきるような女が面白いとは思うのだが。
存外変わった女ではあるものの彼女はわりと普通の女だ。

「私は、彼女達が言うとおり誇れるような特技もございませんし教養もなければ礼儀も知りません。ここにいるのが不思議なくらいです。貴方に手を引かれているのが嘘みたいです」
泣きそうな顔をして彼女が言う。
身の程をわきまえているというのか。立場を理解しているというか。

泣きそうな声で彼女が言う。
答えてくれと。

「何で、私を選んだの」

正直に言えば俺は彼女をどうこう思っていない。
組織の奴が彼女を選んで連れてきたんだから。

それを伝えるのはあまりに酷だと思ったし言う気もなかった。
かと言って彼女が欲しいであろう愛してるとかなんとかと嘘をつくのも癪だ。
それを聞けば相手は安心するだろう。そして俺なんかどうでもよくなるんだろう。
勝手にそう解釈しては生意気だと不満を抱いた。

彼女が静かに泣いていたがいい気味だと思いながら無言のまま手を引いた。
相手の部屋につくと彼女を入れて今日はもう出ないように伝えた。
後で下女に何か拭くものを持ってこさせることも伝えてその場を後にした。

ある日廊下で彼女を見つけた。
彼女が眉を寄せて見る先は何かと思えば鍛練をする者達で。
何が不満かと聞けば争いを連想してしまうからと答えた。

虫も手にかけたことがないような女はそこらに溢れていて彼女もその一人なんだと呆れる。
ところでこの煌も戦で成った国だと言えば彼女は益々整った顔を歪めた。
認めてしまえばいい。そうすれば俺も納得できる。
争いがあった上で美味い飯を食らい綺麗な服を着ていると。
何かを誰かを犠牲にして自分はのうのうと豊かな暮らしをしていると。

戦は、必要なのだ、と。

彼女は顔を歪めたままそうですねと言った。
煌が豊かなのは争った結果なのでしょうと。
しかしそれで何人もが血を流して死んで残された家族は悲しんでいるでしょうと目を伏せて言った。
それからは何も言えなかった。

後から知ったが彼女は両親を亡くしている。
と言うのは表面上。
組織に殺されたんだろう。

今更ながら組織は何故彼女に目をつけたのかと。
こんなにも真っ直ぐな彼女にどうして。
しかしそうでもしなきゃ自分は彼女の存在も知らなかっただろう。