まだ眠くぼんやりとした頭の私を呼ぶ声に渋々目を覚ました。

「もうすぐ夜が明けますからどうぞ自室へお戻りください。」
そう言いながら顔を覗いてくるのは幾度かみたことのある男だった。
シャハラの従者の、赤毛の、ぼんやりと相手を認識する。
寝込んでいる、と聞いたのはこの男の事だった筈だが…細かいことは置いておこう。

ふと横を見れば情事を終えた後の姿のままのシャハラがすやすやと眠っている。
ここでようやく、夜も明けない内に大して話したこともない男に起こされた理由がわかった。

「なんて、ことを」
ここは彼女の部屋だ。
昨晩何をしたか忘れた訳ではなく、なかったことにできるわけでもなく、なんだかひどく頭が痛かった。
馬鹿なことをしたと、思った。
それでも彼女を起こさぬようゆっくりと起き上がる。

「…何か、言いたいことは?」
元々相手はぺらぺら喋る方ではないとわかっているが主君のこの愚行、なにも感じないというわけではあるまい。
そういった意味で問いかけると私の髪を慣れた手つきで結いあげる相手は手を止めてこちらをじっと見つめてきた。
そして小さく彼女の事が好きかと聞いてきた。
曖昧に言葉を濁しに濁し続け、ああ、私は彼女が好きなんだろうか、と思った。

(幼い頃、から)

「あの人が幸せなら良いんです」
そういうとまた彼は黙り込み淡々と私の髪を結った。
随分人の世話を焼くのが上手い。それは彼がシャハラの従者でこういったことをいつもしているんだろう。

服の、着替えも?
自分がむっとするのはわかったが幼稚だと頭を振る。

私が一通り準備を終えると未だ深く眠り続ける彼女の額に一度口づけて部屋を後にした。

馬鹿な事をした。愚かな事をした。
きっと誰も理解してくれない。赦してはくれないだろう。
けれど別にいいだろう。これで、いい。

「他の人など関係ないでしょう?」
彼女ならそういうだろうと一人ごちては笑みを浮かべた。

愚行
考えの足りない、ばかげた行い。