「シンドリアかぁ!イカ!食べたことある!ジュダルがさ!イカ!ね!」
はやる気持ちを抑えきれず船の甲板で騒ぐ。
思えば私は煌から出たことがなかった。いや、そもそもが屋敷からさほど離れた場所にも行ったことがない。
それが、初の海外!シンドリア!南国!島国!これが騒がずにいられようか!

不意にはっとして騒ぎすぎただろうかと思いなおす。
見た目こそ子供だがいい年してこんなに騒ぐなんて…と自分で呆れたのもある。
ただそれ以上に白龍がこいつうるせぇなぁ、黙んねぇかなぁ、と思っていたらと。
そっとおそるおそる振り返って白龍を見る。

先程まではちょっと小難しい顔をしていたものの私と目が合うと優しげに微笑んだ。
そして楽しみだな、と言ってくれた訳である。

素直に、ここで暴露するが。
私は最近白龍が気になって仕方ない。
元々気にしてはいたがそれは弟や小動物といった類としてだ。
やだわぁ、一人で怪我とかしないかしら?傍にいなくて大丈夫かしらぁ?なんてそんな程度だった訳だ。
しかしジュダルとの一件、そして玉艶との一件の後、私はどうしてこう、なんかわからないけれど彼を意識してしまう訳だ。
好きとか、なんかそういう次元で、意識している訳だ。

「(ふじゅんだ)」
自覚してしまえばこちらのものだ。
不純?上等じゃないか!不純で邪な思いが世界中から消えてしまえばセックスなんてなくなる!子孫繁栄もなくなり人類は滅亡!なんて嘆かわしい!
よって!不純で邪でいやらしさ、そしてエロス神は大切なものだという訳だ!

心の中で勢いづくとそのまま彼の手を握り締めた。
そして楽しもうネ!という声は裏返った。
彼がさもおかしいというように笑うと楽しもうな、と言ってくれた、訳だ。

(それだけで嬉しい、なんて)
エロス神は一体どこへ行ったんだろう。

「シンドバッド…!コロス…!」

不穏な音は気にしないに限る訳だが。

「…紅玉は一体どうしたんだろうな」
「…さぁ…こら、呼び捨てにするな」
何はともあれ、彼の手を強く握りしめて、絶対に守ってやろうと決めた。
どれだけ時間が流れようと場所が変わろうと、彼だけは。