彼女の言葉の意図がよくわからずに呆けた表情を向ければため息をつかれた。
貴方の母親の形見だったわね、と確認されて頷く。すると彼女が言葉を続けた。

「本当に、どうしようもなくて、前に進めなくて、困った時、世界の摂理を捻じ曲げてでも、貴方が幸せになれるようにもう一度やり直してほしい、って事でしょう?」
ね、と彼女が私に同意を求めてきた。

ただ、それは彼女の見解であり本当かどうかはわからない。
ただの願望や希望の域を出ていない気もするが…私にはそれが都合いいのでそう思うことにする。
…そして彼女のその見解は、私には思いつかなかった。なんて都合のいい甘ったれた考えだ、といえばそれで終わる。
でも、そうじゃないと感じた。

抱きついてくるまだ幼い白龍を抱き上げ笑みを浮かべていた彼女だからこそだと思えたのだ。
母親、であるからこその。

「ねぇ、約束して」

白雄や白蓮を殺した時、一体どんな気分だっただろうか。
直接手をかけたのかどうかは知らないが、我が子を失う気持ちは一体どんなものなのだろう。

「白龍を殺したりしないって!」
私の言葉を聞いた玉艶は帰ろうとしていた足を止めて振り返り笑った。
面白いことでも聞いたかのようにひとしきり笑うと私を見た。

「いいわ、約束してあげましょう」
彼女が了承したのを聞いて距離を詰める。
魔法の破れぬ誓いを立てようと持ちかけた。誓いを破れば死ぬという事もきちんと説明して。
説明を受けた上で彼女が了承したので正式な形ではないが魔法をかけた。

「…そんなに、白龍が大切なのね」
儀式を終えて掴んでいた彼女の手を放した。
小さく呟いた彼女の言葉に頷いて認める。

「だけど、それ以上にもう貴方は傷つかなくていいと思ってる」
これ以上もう辛い思いをしなくても、と私が言うと彼女は笑みを浮かべた。
何を言ってるの、と蔑むような笑顔だったが何故か、私には泣きそうに見えたのだ。


数日後シンドリア王の来訪があり、白龍の留学が決まった。
私も白龍に誘われて、ついていくことになった。