まずはじめに俺が認識している彼女の事について確認してみよう。

最初に領主の娘だなんて地位の彼女が遠い異国である煌の第一皇子である俺に嫁いだのは。
彼女が幸か不幸か組織に目をつけられたからだ。
マギもいて目の届く範囲にと思ったかどうかは定かではないが理由としてはそんなものだろう。

そしてこれに関しては全く彼女は理解していない様子だ。
それどころか剣を握ったこともないような彼女がこれからどうこうなるとは考えづらい。
要約すれば組織の目星は残念ながら外れだということになる。

以前、何だか厨房が騒がしいと覗きに行けば彼女がいた。
何をしているかと思えば周りが止めているのにも関わらず包丁を握り鍋を手に取って料理をしようとしていたらしい。
彼女からしてみれば何らおかしな事はなく故郷では使用人が快く教えてくれていた、らしい。
しかし今はまた立場が違うだろうと諭して不服そうな彼女に鍋を被せるとようやく納得した。

また中庭で座り込みせっせと何かしていると思えば花をぶちぶちと抜いては編み込んでいた。
造りはわからないものの何個か花の冠が出来ると満足そうにした。
それで何をするかと聞けば一つ紅玉にあげるのだそうで。
ああ、それは喜ぶだろうなと言えば彼女はもう一つをこちらに寄越した。
そしてにこにこと笑いお似合いだと言ったのだがそれは一体どういう意味かと思ったが何も言わなかった。

良くも悪くも素直で正直できっと行動せずにはいられないのだろうと思う。

甚だ失礼な話かとも思うが俺にとって彼女は愛でるべき愛らしい存在などではなくて。
興味や好奇の的であるにしか過ぎないのだがこうして気にかけてやっている分に感謝はされど文句はないだろう。

話がしたいと彼女を部屋に呼んで向き合って座り何をしようかと思えばふと俺が呼ばれて。
彼女には悪いが部屋を離れて用事を終えて戻ろうかと思えばすべき事を思いだし中々戻れず。

夜になって部屋に戻り、彼女がいなくても咎める気は全くなかった。
だから彼女がまだ部屋にいた時、少しだけ驚いた。
まだいたのかと言えば彼女はこくりと頷いて考え事をしていたと言った。
また何か変わった事を考えていたのかと聞けば彼女はじっとこちらを見上げて言う。

「紅炎様は何故、私が嫁ぐのをよしとしたのですか」
彼女はとても可愛らしい顔立ちをしているし美しい声だと思う。
本来ならば彼女を抱き締めて不安にさせてしまった事を申し訳なく思い愛を囁くべきなのかもしれない。
そうでなくとももっと何か彼女が欲しがる言葉をくれてやるべきだろう。というのを頭では理解するものの思考は冷えきっていて。
ああ、何だ彼女もそこらの女と同じ考え方をするのかと思った。
興が醒めるとはよく言ったもので彼女への好奇はみるみる内に失われていった。
しかし目の前にいるのだからからかってやろうという気はあり相手に笑いかけてやる。

「愛してると言われたいか」
彼女がややあってからこくりと頷いた。
悪いことではないし彼女達の立場からしてみれば愛されなくてはいけないんだろう。
だけれど浅ましいというか機械的というかなんというか。
理解はしていても納得は出来ないな。
相手の細い身体を寝台へと押し倒し赤い唇をなぞると白い頬を桃色に染めた。

「待ってください、いけません」
抱いてくれとせがむかと思いきや彼女はそう言った。
振りかと思いながら着物の合わせ目に手を差し入れると目をつむり泣きそうな顔をしたので止めた。
本当に嫌がっているようだったので手を離した。
うっすらと滲んだ涙を拭うと彼女は細い声で謝罪の言葉を口にする。
そして身体を起こすとでも、と口を開いた。

「こういう事は、愛し合う男女がするものでしょう。愛のある二人のもとにしか子は宿らないと聞きますし」
はた、と思考が決まる。
待て、待て、待て、今、何と?
まだ目元の赤い上半身を起こした彼女を真っ直ぐと見詰めた。
彼女は何かおかしな事でも言っただろうか、というような表情だ。

「お前は俺が好きじゃないのか」
「よく知りもしないのに何処を好きになればいいのかわかりません」
「でも今しがた愛されたいと」
「貴方に愛されなくてはいけない立場ですから当然ではないのですか」
しばしの沈黙の後に俺の機嫌を損ねたと思ったのか慌てて彼女が口を開いた。

「何もしらないと言うわけではありませんね。私に厨房で鍋を被せたのは貴方でしたし」
ああ、そういえばそうだな。
そんな愛されるような行動はしてないが。

元より怒ってはいなかったが不安げに恐る恐るといったように俺を見上げる彼女は不憫だった。
が、別に嫁いだけど好きでも何でもないのよと言われた俺よりはましだろう。

と言うわけで彼女への仕返しはやめないことにする。
彼女の小さな身体を再び押して寝台に倒す。
そして覆い被さってやるとやっぱり怯えたような様子になる。
が、これ以上は何をする気もなかった。
別に彼女が嫌がろうが何をしようがそのまま犯してしまっても何も問題はないが今はこうしてからかう方が楽しいからいいだろう。

「紅炎様、嫌です、止めてください」
「うるさい黙れ、寝ろ」
「寝ます」
彼女はしばらく何がなんだかわからないと言った表情だったがようやく宣言通りに目を伏せて寝た。
無防備に眠りにつく彼女の白い頬に口づけを落として自分も睡魔に身を委ねた。