※近親相姦
※暗い

以前、怪我をして血を出した。
その頃から何故か自分にとって血液というのは忌むべきものではなく、むしろ好ましい、尊い美しい何かに思えてしまっていた。
だからへらへらと笑みを浮かべて怪我の手当てをしてくれ、という自分はそれはそれは変な奴だっただろう。
実際にそういう視線を浴びたから自分は一般的ではないのだと感じた。

そんな出来事を思い出しつつ、今再び自分は怪我をしている。
理由は大した事がなく誰かに非がある訳でもなく怪我は微々たるものだった。
血が流れる指先にやはりこれはとても好ましいものだと感じつつも以前浴びた冷めた、畏怖するような、あの視線を思い出した。
手当てをしてくれ、と誰かのもとにいく気にもなれず、かといって自分にはできない。
いやいや、そもそもこんな怪我、痛くなんて、と血が流れる指先を口に加える。
何とも表現し難い味が口の中に広がった。

指先は、確かに痛かった。

どうしてかひどく目が熱くなってその熱を逃がすかのようにぼろぼろと涙が溢れた。
鼻を啜りながらひょっとしたら自分は誰にも受け入れられずこのまま一人で死んでいくのではと思った。
随分ぶっとんだ考えだがその時は確かにそう思った。

「紅覇、泣いてはいけませんよ。ほら、もう痛くないでしょう」「大丈夫よ、治りましたから。ね、もう泣かないで」「紅覇、紅覇、いい子ね。これからは気を付けるんですよ」

名前も、きちんと覚えていない、話した事すら数える程の、半分だけ血の繋がった姉が魔法使いだと知ったのは泣き止んだその瞬間。

彼女の母親はどうやら死んだらしい、というのは建前で逃げ出したそうだ。
真偽はともかくそういう噂があり、信憑性もそれなりだが、僕もそうなんだろうと思った。
お咎めが彼女に何もないのはあの父親が気にかけていないのか、噂自体が嘘なのか。
とにかくその見たことのない彼女の母親が魔法使いなんだろうと思った。
彼女は決して人から憎まれるような人柄ではないし愛らしい容姿をしていると思う。
だからこそ、それ故に、また噂も重なって、彼女への中傷や批判を耳にすることは、ある。

だからといって、僕が彼女にどうこうというのは決してないし、むしろ先日の一件より好意を抱いている。
だからといって、僕が積極的に彼女に声をかけるという事もなかった。
なかったのだけど。

「紅覇、先日の事、誰にも言わないでほしいんです」
その一言で、ああ、そうか、僕は彼女の弱味を握っているんだと、気付いた。


歪みに歪んでまた明日