※酷い過去捏造

あれは、神様だったと思う。
長い髪に透けるような肌とどこまでも響く声。
とても美しい色の瞳をしていた。
神秘的で作られたもののように感じた。

「…ごめんなさいね…あなたをこんな…」
彼女は眉を寄せて悔いを露わにした表情をしてた。
ただ仮に彼女を神様、女神様としよう。
なんてやつだ。
私を実年齢よりも若い体にして。小人になったかと思った。
もしあの女神様が私を元々いた世界からひきずって体をいじくった挙句こんな場所に飛ばしたのだとしたら文句がいくらでもでてくる。
ただ実際に伝えないでおこうと思うのは彼女があまりにも泣きそうな顔だったからだ。
そして私がこの世界で生きていこうと決めたからだろう。

ということはさておき紅玉が帰ってきた。
嫁いだはずじゃなかったのかという話は何だか色々問題が起きて面倒だった。
とりあえず彼女の結婚は白紙になり再び話す時間ができて嬉しいと思う。
何だか最近溜息が多い気もするが皇女様はお忙しくお疲れなのだということで終わっておこう。

そしてジュダルだ。
別段気にしていなかったのだけれど不意に彼を思い出した。
何故か私に突っかかってこなくなった。いいことだ。
この調子で関わりをシャットダウンしてしまえば楽だ。
大人の付き合い、もといストレスを少なくする人付き合いというのは面倒事は最低限に。
付き合いたく相手なら最低限の付き合いに留めるべきだ。

だけれど一人でぼんやりと不満げに座り込む彼は何だか可哀想という言葉が似合う気がして構いたくなるというか抱き締めて頭を撫でてやりたくなるというか。
私がうへぇ、という嫌悪の色を滲ませた表情であるというのに私が近付くだけで嬉しそうにするものだから構いたくなってしまう。

「こっち来いよ」
「行きたくない」
「って言いつつ近寄ってんじゃねぇか」
うるさい、と言いつつ彼の隣に腰を下ろした。
きっと服が汚れるだろうなぁ、と思いつつ先程紅玉からもらったお菓子を膝の上に広げる。
もしゃもしゃとおもむろに菓子を食べ始める私をジュダルが見ていた。
ほしいならほしいと言え。なんて事を考えつつ彼にお菓子を一つだけ差し出した。
私の手から菓子を取るだろうと思っていた彼の手は急に、私の腕を掴んできた。
何がなんだと目を見開く私を力任せに引き寄せて彼が抱きついてきた。

え、なにこれ。そういえば私嫁入り前の体だよ。いかんよこれ。はしたないよこれ。
ぎゃー、と叫ぶ予定を立てながら彼を見るとひどく泣きそうな顔をしていて私の思考が一気に落ち着いた。
なんでこいつ泣きそうなんだ意味がわからない。あ、お菓子落ちてるもったいない。

「…なんかさぁ」
彼の声は思ったよりも落ち着いていた。
続きを促す声はできるだけ優しく出したつもりだ。

「なんでもないけどな」
あまりにもいつもと変わらない声のくせに泣きそうな表情だから。
だから、とても心配になった。

(子供め)
必死に抱きつく彼に何か嫌なことがあったんだろうと思った。
生きてれば嫌なことの一つや二つ、ものすごく嫌なことの二つや三つ、いくらでもあるものだ。
だけど、可哀想だと思いながら彼を抱きしめた。
彼を、ジュダルを可哀想だと思って抱きしめて頭を撫でて背中をさすってやりながら、白龍の事を考えてた。

貴方が幸せになることだけ考えて生きていけたらいいのに。