生きることの難しい人がいる。 何をやっても上手くいかなくて涙する人が。 どうしようもなくなって挫折する人が。 道を外れて泥水を啜って生きていく人が。 そしてその逆もいる訳で。 それが私なんだろうと思うこの頃。 皇女である彼女との付き合いは私をいい気分にさせた。 気兼ねなくとはいかないが女性同士であれが素敵、これは美味しいなどといった会話が私はどうにも気に入っていたのだ。 美味しいお菓子があるの、お茶をしましょうなどと誘われた日には何か白龍に言いつけられていたことも忘れて喜んでついていった。 細かい事情は知らないがあくまでも皇女である彼女と細かい事情はさておき皇子のただの従者である私とが付き合うのは好ましいことではないだろう。 という話はさておきこの度彼女は結婚するらしい。 遠くへ行ってしまうらしい。 高貴な者としてはずいぶんと遅い婚約だが残念なのはそこではない。 遠くへ、行ってしまう。 私とこうして気軽に会えなくなる。 寂しいと告げながら私は彼女から出されたお茶を飲む。 すると彼女はなんてことはないように笑みを浮かべていた。 結婚の際にはお兄様が見に来てくださるだとか素敵な方に違いないだとかそんな話をしていた。 けれど、ふと、急に彼女は下を向いて弱々しく口を開いた。 遊びにきてね、絶対よ、と。 それ以上彼女は何も言わなかったが、私は目の前の少女が、まだ少女の彼女が煌に帰ってこれなくなるというのを改めて感じた。 家族と離れなければならないことを惜しむ彼女を心情を私は察することができなかった。 思えば私は元の世界に未練がない。 微塵も、ないのだ。 決して誰にも情を動かされなかった訳ではない。 年下の婚約者だって愛しはしなかったが気にかけていたし、 夜通しばか騒ぎした学友を忘れたわけでもない。 家族だってそれなりに気をかけていたつもりだ。 けれど、元の世界に戻りたいとか帰りたいとか、そんなのはないのだ。 いやいや、遡ればこの世界に来たときはかえる方法を探していた気もするが今は微塵も。 というのは私はこの世界で生きていこうと、生きていきたいと思っているからだろう。 そして私をそう思わせているのは白龍なんだろう。 私は彼を守り、幸せにしてやりたいと思っている。 彼に笑顔でいてほしいと心から思っている。 紅玉が煌を離れて数日。 なんだか暇な時間が増えたと感じるのは彼女に割いていた時間が空いているからだ。 「珍しいなお前がこうしてるなんて」「うん、久々だなとは思ったよ」「…そうか、義姉上が嫁いだからか」「そうだなー、寂しいなー」「随分親しくしてたしな」「…拗ねてる?」「なんでそうなる」「拗ねてない?」「だからなんでそうなった」「いや、特に意味はない。拗ねてても良かったけど」「お前が何を言いたいのかわかりかねるぞ」「いやいや、別になんでもない。ほら、鍛練いくんだろう。邪魔が入る前に行こうよ」「…なんだ、お前もくるのか」「相手してあげようか」 今の私の生きる理由ともいうべきものが隣で笑みを浮かべてる。 |