生きることの難しい人がいる。
何をやっても上手くいかなくて涙する人が。
どうしようもなくなって挫折する人が。
道を外れて泥水を啜って生きていく人が。

そしてその逆もいる訳で。
それが私なんだろうと思うのこの頃。

そんな私の亡くなった家族の話をしようか。

全く無関心という訳には行かず、学校やらなんやらと世話になった相手だ。
ただ世間体を人一倍気にする人達だった。異常だとも思えたがもしかしたら常識の範囲内かもしれない。
とにかくそんな彼らは病に伏して父が三年前、母が半年前に亡くなった。
幸か不幸か富と地位はそこそこにあり、成人し終えた私は生活に困ることもなかった。
冷めた関係というのがひどく正しい家族関係だったと思う。
半年前に亡くなった母が私に一つネックレスを手渡した。丸い飾りのあるものだった。
中が開く作りになっていた。困ったとき、本当に困って助けが必要になったときに開けなさいと言って母は死んだ。
好きだったかと聞かれてすぐには頷けない。ただ、嫌いではなかった。憎んだりもしなかった。
だからこそ母親に手渡されたふざけた装飾の悪趣味なネックレスは彼女の遺言どおり開けずに身につけている。

そんな私が年齢のわりには綺麗な人だなあというのんき極まりない感想を抱いている相手こそ主の白龍の母親である。
彼は私が彼女と関わるのが不満らしい。白龍はぶすったれるが私はどうも悪い人だとは思えなかった。
理由を白龍に聞いてもいまいちしっくりこなかった。
白龍が言うには白龍の兄、玉艶からすれば実子にあたる長男次男を殺したそうだ。
例えば歴史の本を開けばそんな話は腐るほどあるわけで、信じられないことはなかった。
まあ、そういうこともあるだろうと感じた上で私は何か事情があったんだろうなあと思った。
そんな感じだ。
実子を殺すに至った理由があるんだろうと思った。
それも知らずに悪とするにはいささか早いのではないかと。
自分の思考が一般的ではないことはなんとなく理解している。
それでもどんな理由があれ白龍が、子供が親を恨むのは少し寂しい気がした。
逆も同じで親が子供を憎むのはとてもとても悲しい気がした。

「あら、シャハラ。今は、一人なのね」
私の思考の中に登場していた人物が目の前に。
慌てて立ち上がり頭を深々と下げる。
するとふふふ、と笑う声が聞こえて頭を上げるように言われた。

「それ」
そっと顔を上げた私を見て彼女が言う。
何を指しているのかわからず首を傾げた。

「首飾り、とても素敵だわ」

『貴方が本当に困ってどうしようもなくなった時、これを開けなさい』
中身は何かと聞いた。答えてはくれなかった。
ただ、私の手をぎゅっと握っていた。黙って握りしめていた。

「贈った相手はきっと貴方をとても慈しんでいたんでしょうね」
そうだといい、と少しだけ思った。
未練なんて欠片もない世界がちょっと、惜しくなった。