生きることの難しい人がいる。
何をやっても上手くいかなくて涙する人が。
どうしようもなくなって挫折する人が。
道を外れて泥水を啜って生きていく人が。

そしてその逆もいる訳で。
それが私なんだろうと思うのこの頃。

しかし私にも悩みの種はある。

何故か私を魔法使いと見抜いた少年はことあるごとに突っ掛かってくる。
彼いわく戦いたいだけ、他意はないだそう。
意味がわからない。迷惑極まりない。
そんな彼に私は呆れつつ面倒だと感じている。私の主人である白龍も私と同じく、いや、それ以上に呆れている。
そして嫌悪も混じっているようだ。

「必要以上に構うな。放っておけ」
ごもっともだ。
とにかく私は彼、ジュダルとできれば関わりたくないなぁ、と思っている。

「なぁ、なんで白龍なんだよ」
なんて事をジュダルは何の脈絡もなく私に言った。
その手には杖が握られており先端は私に向いてる。これが通常運転。
何が言いたいのかわかりかね、とりあえず彼が握る杖を取ると放った。
あー、と情けない声が響く。拾いに行く様子はなかった。

「…何が?」
「なんで、白龍なんか好きなんだよ。泣き虫じゃんあいつ」
「…いや、違う」
「違わないだろ。馬鹿だろあいつ」
「いや、馬鹿も泣き虫も否定しないけど私が白龍好きだって言うのを否定する」
「…好きじゃねぇの?」
「うん。一体なんでそんな話になったのか驚くくらいには」
「だって、ほら、なんかすっげー、一緒にいるじゃん。常に」
とても、とても、あほくさい会話をしている気がする。
そしてあほくさい思考をしていると思う。彼が。
従者だからときまりきった答えを溜息とともに彼に告げる。
すると彼は納得するではなく不機嫌そうにふいと顔をそらしてぼやく。
何故白龍の従者になったのか、というそれは私に向けられた問いだ。
彼の真意を掴めないまま特にそれを気にすることもなかった。
あほらしいと話を流していたが不意に思考が止まる。

なんで私が従者だなんて立場を甘んじて受け入れているのか。
それは行き場をなくし生きていく術を持たない不条理の最中にいる私を彼が拾ってくれたからで、
それは私が彼に、誰でもなく彼が私と一番最初に顔を合わせたからだろう。

という旨を告げるとジュダルはそれはそれは不満そうに
「二番目は俺だった。白龍がいなきゃ一番は俺だった」
と口を尖らせて何が不満なのかぶっすりとした表情で言ってた。
初対面で戦おうぜ!杖出せよ!なんて言ってくる奴に従いたいとは微塵も思わない。
そして私は結局彼が何を言いたいのかわからないまま部屋に戻った。

私が白龍を大切だと思うのは、助けてやりたいと思うのは、私を助けてくれたからだ。
そしてそれから短い期間にしろ短い期間の大半を彼と一緒に過ごしたからだ。

ジュダルの好きじゃねぇのという問いかけが頭の中で反芻した。
…違う、こともないのだろうか。好意はあるけどこれは一体どの類の好意なんだろうか。

あほらしい会話に振り回される辺り私もあほなんだろう。