生きることの難しい人がいる。 何をやっても上手くいかなくて涙する人が。 どうしようもなくなって挫折する人が。 道を外れて泥水を啜って生きていく人が。 そしてその逆もいる訳で。 それが私なんだろうと思うのこの頃。 そしてこの世界は摩訶不思議であることも付け加えておこうか。 魔法使いとして生を受けた私は非常に斜めに構えていた。 そんなある日何が起こったのやら若年化という副産物付きで元の世界を離れた。 原理がどうとか考えてもわからないので結果のみを述べればタイムトリップならぬ異世界トリップをした訳だ。 そして摩訶不思議な世界に足を置いた私は白龍の従者という立場にある訳だから、 「生きるのが、楽すぎる…」 「黙ってられないのかお前は」 ただいまは自炊中だ。 可哀想な立場にある私の主こと白龍の待遇は温かいものではない。 食事に関しても目くじら立てる程ではないが気になる部分が多々。 それに不満を述べることなく彼はこうして自炊をする訳だが。 そして彼が作った料理は美味しい。という訳で私も美味しい食事にありつける。 「生きるのが楽で幸せって…どうなのこれ。恵まれない子供たちはどうなるの?」 「だからお前は黙ってられないのか。少しくらい大人しくしろ」 「いやいや、白龍のご飯が美味しくて、それを食べられて幸せって話なんだよ」 もぐもぐとおかずに手をつけながら白龍を見やる。 こうして従者にため口聞かれながらぐだぐだご飯食べるなんて彼くらいだろう。 少しくらい自重を覚えるべきか。いや、面倒だな。そんな考えをぐるぐると回す。 「…ありがとう」 ただ、照れたように少し俯いて小さくお礼を述べる彼にそんなことはくだらないと思える訳だが。 どこの世界でも妬ましいという感情はあるらしい。 私からすれば妬みなどというのはくだらないの一言に尽きてしまうのだけど。 だって人を妬んでも何も変わらない。向上心はどうした。それか諦めを覚えろ。 諦めてしまえば楽になるんだから。 片付けられてないというよりは汚されたと言った方が正しい厨房に私が足を運んだのは食事が運ばれてこなかったからだ。 その先で、食事くらい自分で運びなさい、後片付けも貴方の仕事よ、と妙に口元を歪ませた女官の一人に言われた。 視界に入る厨房はわざわざ汚していただいたような状態であるのだが。 言い返すよりかはここをきれいに片付けてみせようと思った。 汚れた厨房に一人、誰の目もないのだ。 別に隠してるわけでもないけど、と心の中で呟きつつ杖を取り出した。 呪文を唱えて杖を振ればぶわりとごみが浮き一ヶ所集まってくずかごにはいっていく。 食器の類いは汚れが落ちるとあるべき場所に戻っていく。 まぁ、こんなものだろうと片付いた厨房を見まわし、最後に台を拭いていると深いピンク色の瞳と目があった。 誰もいないと思っていた厨房に人が来ていたわけだ。それに私は全く気づかなかったらしい。 杖が一本何を言うでもなく私の手に収まっている。 じっと彼は私を見つめた後、にこっと笑ってみせながら近付いてきた。 そして彼は見事私を白龍の従者だと言い当て、魔法使いであることの確認をあおいだ。 別に隠してるわけでもないから、と私が肯定すると嬉しそうに彼は私の手をとる。 すごいね、何だか変わってる、かっこいいよ、だとかなんだとか。 単純な誉め言葉を馬鹿らしい、くだらない、と確かに感じているはずだが胸が熱くなった。 どんなにくだらなく馬鹿らしい誉め言葉でも、誉められると気分がいいのは変わらないらしい。 単純なのはどちらだ。 彼は私の頭を撫でると微笑んだままあまり見かけない髪色だと告げた。 それから一体どこからきたのかと問いかけた。 別の世界からと答えるのはとても簡単で愚かしいのはわかっている。 だから煌で生まれたが異国人の血が入ってる、と答えた。 彼は首を傾げたままレームだとかマグノなんたらと地名であろう言葉を私に投げ掛けたがわからないと答えた。 彼がしばらく間をおいてから両親は息災かと尋ねた。 死んだと答えるのは嘘じゃない。 ついこの間、死んだ。 悲しくはなかった。 ただ、遺されたものを見て、虚しくなった。 彼は掴んでいた私の手を強く握るとよくわからない表情をしてから私を抱き締めてきた。 それから何を言うかと思えば自分の下につかないか、とどこからぶっ飛んできたのかそんな風に誘われた。 丁重にお断りしてから部屋に戻ったが結局ご飯のことは忘れてしまっていて白龍に呆れられた。 |