世の中、子供が二人騒いだってどうにもならない事だらけだ。

父が死んだ。
嫁ぎ先に来たその連絡にすぐさま支度をした。
そしてもう二度と戻らないであろうと思っていた煌にきた。

女狐の傍にすっかり変わってしまった父の亡骸があった。
病であったことは聞いていたけれどこんな風になるだなんて。
多少のショックは受けたし恐怖も感じた。

だけど、私は泣かない。
恐怖や哀しみなんかで泣くものか。

葬儀はまた一つの争いを生みそうな、不穏な空気をつくって終わった。
私も正直、次の皇帝はまだ若いけれど紅炎だと思っていたから驚いた。
だけれど、誰が皇帝であろうと嫁ぎ先に帰ればあまり関係なくなってしまう。

「久しぶりだな」
長旅で疲れを感じた。だから部屋へ戻ろうと。
そんな矢先にあの男が声をかけてくるものだから足を止めた。
従者や女官に下がるよう伝えた。
一瞬戸惑いを見せる彼らに笑ってみせる。
後は部屋に帰るだけだから、と。

「私が嫁いで以来ね」
従者達が下がったのを見送ってから再び彼は口を開いた。

「何だ、随分と冷たいな」
何を言うかと思えばそんな事。
どの口がそれを言うか。

「私は、いつもこうでしょう」
ため息をついてから肩をすくめてみせた。
別段、相手をどうこうしようという気はないんだ。
抱かれたのを気に病んでいる訳ではないし、今まで一つも連絡がなかったからって一体何だ。
そんなものだろう。
何をどう気にしろと言うんだ。
良い方向にも悪い方向にも。

「あの日は泣いていたのに?」
できるならもう部屋に戻りたかったのに。
口が減らないというか。
一々癇に障るというか。

「何年前の話よ。何が言いたいの」
私を苛立たせたいのか。
勘弁してくれ。疲れてるんだから。
一体彼は何を考えているんだろうか。
なんて事を思いながらそう言えば彼は少しだけ視線を落としてぽつりともらす。

「シャハラ、お前を手放すべきではなかったと」
ますます訳が分からない。
どういう意味だ。

「武人として傍に?あの女やあの子みたいに貴方の駒として?良かったわね、顔が良くて。それだけのくせに」
無意識の内に眉を寄せて腕を組む。
はん、と馬鹿にするように笑い声をあげた。