「一体何をこの後に及んで嘆けと。貴方そろそろご立派なご趣味の読書でもなさったら?」 私がそう言うと紅炎が笑う。 笑って私の片手を掴んで顔を近づけてきた。 「何だ、俺に会えなくなるのが寂しくないのか」 「話相手は貴方の弟君に頼めば良かったかしらね」 私が言うと彼は肩を竦めて残念そうな表情をしてあいつは面白くないだろうと笑った。 いい加減手を放してはくれないだろうかと考えた私の思考を読んだのか。 彼は一層私の手を強く握って私の耳元で低い声を出す。 「そう言うなシャハラ。俺が、お前と話したいんだ」 そう、と極めて平然を装って言葉を返す。 彼の声に背筋がぞくぞくとした。 これ以上はいけない。離れてくれ。早く。 「兄上様とでも呼んであげましょうか」 彼の大きな骨ばった手が頬を撫でる。 掴まれた手が諦めろと言ってる気がした。 「いや、名前で呼んでもらおうか。これからする行為の最中くらいは」 私の両肩を掴んで額、瞼、頬、唇、と口づけてからようやく彼は離れた。 「一体、何を」 決して何をするのかと聞いた訳ではなくて。 「さぁ、察しろ」 何を考えているのかと聞いたのに。 息が詰まる。 痛い、痛い。 自分らしくない悲鳴を上げて相手の背に爪を立ててしがみつく。 相手の大きな手が腰の辺りを撫でてくる。 優しい声で力を抜けだとかなんとかほざく。 「やっと、泣いた」 相手が私のまぶたに口づける。 目のふちを舌で舐められてたまったもんじゃない。 何か文句を言ってやろうと思ったら相手はゆるゆると動きだして。 やっぱり縋るようにしがみついて涙流して声を上げるしかないじゃないか。 「いっ、あぁっ」 痛い痛いと言っても相手は聞く気がないのか、聞いた上での行為なのかそのまま動いて。 私が快楽を感じ始めて意識を飛ばしそうな頃に果てた。 足のあたりに書物でしか読んだことないけれど、男の液体がかかったようでとても不愉快だった。 横で抱きしめるように触れる相手がきっと誰であろうと私は抱きついたんだと思う。 自分と同じ赤い髪に何故かひどく安心して目を伏せた。 …ああ、何だ。 どっかのくそじじいよりは、まぁ、これが相手で良かったのか。 兄の、半分血の繋がった、私の、かぞく。 (あ、) 「何だ、まだ泣いてるのか」 「さっき泣き始めたのよ」 嫌な時に起きるわね、と告げるとやっぱり相手は笑う。 とても不愉快だ。こいつの笑顔は私を不愉快にする。 けれど私を抱きしめたままの相手は泣きじゃくる私を見て心配になったのか眉を下げる。 そして小さな声で申し訳なさそうに私の腰の辺りを撫でて言う。 「痛むか、大丈夫か」 随分と的外れになってしまった気遣いの言葉に笑ってしまうのは私。 「ああ、少しくらい黙ってちょうだい。ほら、兄上様」 違うんだよ紅炎。 そうじゃなくて、私は家族から離れるんだよ故郷から離れるんだよ寂しいよ。 泣くのはこれで最後だから。 だから頭を撫でて抱きしめてくれ。 私の兄上様。 |