「青舜を呼んで、二人で私の部屋にきなさい」
酒を口にしたらしい主は顔を真っ赤にしたままそう言った。

(ああなるまで飲まなくても良いのでは)
別に主のする尊い行動を非難するつもりもないが少々危なっかしいのが心配だ。
いや、その危険となるものから守るのが私の仕事で使命ですべきことなのだが。
それにしたって足取りが重いのは気のせいではない。
少々理性のとんだ主は笑みを浮かべていて青舜を部屋に呼びつけるつもりらしい。
何を企んでいるのやらわからないがあまり良いことではない気がする。
…だから別に主のする尊い行動を非難するつもりはないが。

大体、以前彼女が彼の前で私の想いを暴露した一件から私は彼に会っていないのだ。
それを改めて顔を合わすのがまた彼女の前でなんて。気が引ける。
どうか何事もありませんように。無事に終わりますように。
ようやくも目的の人物を見つけて定型通りの挨拶を交わし、白瑛に断り了承を得てから彼を連れる。
そして改めて主の部屋へと足を運ぶため長い暗い廊下を歩いた。

「…もうすっかり日も落ちましたね」
このやろう。

静寂に堪えきれなかったらしい彼が口を開いたかと思えばそんな事を言いやがった。
そんなの見れば誰だってわかる。くだらない。どうでもいい。
そうですね、夜ですからね、と当たり障りない返事をしてもくもくと歩く。
彼も黙ったまま私の後をついてきた。

気を、使ってるのか、このやろう。

ああ、そうだ、私はお前が好きだよ。だけど伝えるつもりなんて毛頭ない。
答えてほしいなんて思わない。どうにかなりたいだなんてそんな事。
なかったことにしてほしい。忘れてほしいのに。女としてみないでほしい。
前はどんな風に話していたかわからないけど決してこんな風じゃなかった。
何で私は女でこいつは男なんだろう。小さいくせに。
理不尽な文句をつけては心の中で罵った。

「失礼いたします」
彼女の返答を聞いてから部屋へと足を踏み入れた。
寝そべった彼女はやはり顔が赤かった。そして慣れた手つきで酒らしい液体を口にしてる。
それ以上飲んでどうするつもりなんだろうか。
彼女は私の姿を目に留めると部屋の中にいる数人の女官を下がらせた。
部屋の中には私達と主の皇女様の三人だけになる。随分と静かだと思った。
主に手招かれ傍にいけば愉快そうな笑顔の彼女が言う。
なんてことはないように服を脱げとそれだけ。
私が余程呆けた顔をしていたのか彼女はもう一度言う。服を脱げと。

思考が途切れて理解するのを拒否したのは一瞬。
すぐに震える手を衣服にかけたものの動きを止めてしまう。
何かの冗談だろうと彼女を見るが私の行動を促すような視線をくれるだけだった。
悪ふざけならたちが悪い。違う女でも呼んでくれ。私はこんなことする為に仕えてるんじゃないのに。
どうしたの、早く脱ぎなさい、なんて言葉をかけられてそろそろと手を動かした。
私の後ろにいる青舜がどんな顔をしてるかはわからなかったしわかりたくもない。
ただこんな姿は見られたくなかったし泣きそうになる表情には気づかないでほしいと思った。
ぱさりと乾いた音を立てて私の衣服が床に落ちる。