「あ、」
(あ、えろい)

ぎゅっと眉を寄せてびくりと体を震わせた相手から思わず漏れた声。
長いまつげに縁取られた瞳が薄くあけて戸惑ってから小さく口を開いた。
少しだけ恥ずかしそうにすみませんと謝ってきて。
こちらこそごめんなさいと謝罪を返す。そして再び訪れる静寂。
それにしたってやっぱり耐えきれないのか手を握り締めて体を震わせて声を漏らす。
随分といやらしい姿だと思う。よく知らないが性行為の最中の人間ってこうじゃないだろうか。

…なんて兄の姿を見てそう感じる私こそがいやらしい人間だろう。

細い針は彼の薄いやわらかな耳たぶを貫いている。
引き抜けばぷつりぷつりと玉のように赤い液体が現れてはなだらかな線をなぞって落ちる。
白い肌に赤い液体がやけに目立つ。いやらしい。口付けて残す痕ってこんな感じの色だろうか。
細い指がそろそろと血を拭い耳たぶに触れる。それから小さく痛いと呟く声が聞こえた。

耳飾の穴を開けようと提案したのは私じゃないし彼でもない。
きっと違う他の誰かなんだろうけど私があけたいと言った。
多少は反対されたが皇女である私が言ったんだ。押し切った。

彼の傍に腰を下ろして横顔を見やる。
まぁ、華々しさはない顔…だろうか。
姉妹のみんなと話せばまず彼の名前はあがらない。
紅炎お兄様がどうだとか、紅覇がこうだったとか。
私は黙って彼女達の話を聞いている。別に人の話を聞くのが苦にはならないので。
それに彼女達の口から紅明、と彼の名前があがらないのを私は嬉しく思うのだ。

彼に好意をいだくのは私だけでいいしこうして傍にいるのも私だけでいいから。
決して恋だなんだなんてものじゃない。そんなんじゃない。

「まだ痛みますか」
彼の思っていたよりも男らしい腕を取り顔を近づけそういう。
それからゆっくりと口付けて緩く食み吸い付く。耳たぶに。
少し困ったような顔を赤くするから良い気分だ。

笑みをこぼして自分と同じ、赤い赤い髪の毛をするりと撫でた。